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ソーシャルナッジ②「多面ナラティブ共感」を生み出すプロセス

こんにちは。株式会社スパイスボックスの森竹アル(@aru_moritake)と申します。広告と人の幸せな共存を目指して、業界の健全な発展に貢献するため日々奮闘しています。当社では、SNSデータを起点にしたマーケティングソリューションを数多く提供しており、主にSNS領域を主戦場としています。

 数回に渡り、「トラストモードを生むソーシャルナッジデザイン」を題材にした記事を書いていきます。

↓最初に書いたnoteはこちら。

↓前回のnoteはこちら(ビュー数は1万5千を超え、多くの方に見ていただきました!ありがとうございます。)

皆さんの日々のマーケティング活動の一助になると幸いです。毎回「持ち帰りポイント」を入れるようにしていきますので、ぜひお役立てください。

「多面ナラティブ共感」とは何か?

最初のnoteで、情報が洪水するSNS時代では信用される状態づくり(=トラストモード)が重要という話をしました。そしてそのトラストモードづくりを目指した情報発信の工夫を「ソーシャルナッジ」とご紹介しました。今回はそのうち2つ目にあたる「多面ナラティブ共感」について解説していきます。

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「多面ナラティブ共感」というのは、簡単に言うと複数の人から多面的にブランド語り(=ナラティブ)を聞くことで、認知の段階で商品への共感が生まれやすくなり、興味が強まると同時にポジティブに捉えてもらいやすくなるということです。なぜそうなるのか? 順を追って解説していきます。 

私たちは分かりやすいものが好き

私たちは日々、日常生活の中で膨大な量の情報を受け止めています。SNSやスマホの普及による情報洪水だけでなく、テレビから流れてくる情報も、街を歩いている時に目にする情報も、家族や友人、仕事関係の様々な人から聞く情報も含め、飛び込んでくる情報すべてです。そういった膨大な情報に対して私たちの脳は、注意深くすべての情報を精査しているわけではありません。こう言っては何ですが私たちの脳は怠慢です。意識して脳のスイッチを入れない限り、できるだけ省エネで情報を精査しようとします。そのため、どんどん飛び込んでくる情報の中でも、分かりやすいものを好みます。分かりやすいといっても様々で、「見たことがある、聞いたことがある、繰り返し経験したことがある、なじみがある」ものなどがあります。これらを感じるものに対して人は「心地よさや親しみやすさ、好意、安心感」といったポジティブな印象を抱きやすい。これを認知容易性と言います。 

認知容易性 (1)

よく顔を合わせる知り合いや、頻繁にテレビに出ているタレントを何となく好きになったり、慣れ親しんだ地元に愛着があったり、さらにはよく知っている有名ブランドの商品に安心感を抱くのはこのような傾向があるからです。 

あなたのブランドに「ブランド語り(ナラティブ)」はありますか?

マーケティングでは1人が同じ広告に何度も接触してもらえれば効果を得られやすいのか? と考えるのは少々安直です。たしかに広告の多重接触により、認知しやすい状態=刷り込みはできます。広告でよく流れる商品は、商品の並ぶ店頭で思い出しやすく、選びがちではあるのですが、特にweb広告では同じ情報ばかりを繰り返し浴びせることが受け手を必ずしもポジティブな気持ちにするとは限りません、むしろ現代では広告はブロックされやすく、邪魔なもの、ウザいと感じられるものになっている側面もあります。そんな逆境の中、ブランドにとって大事なことは、n=1の顧客や生活者のブランド語り(=ナラティブ)を増やすことです。

SNSの発展によって個人もメディアとなり、発信源となっている中、ブランドへの意見やブランド体験のストーリーを生活者の視点で複数の人から伝えられると「よく聞くな」「あの人も言ってたな」と気になるはずです。そして「みんな言っている」「みんな買っている」という状態になります。広告の多重接触もいいですが、SNS時代にブランドを知る段階でより好意的な興味を持ってもらうために重要なのは、生活者による多面的なブランド語り(=ナラティブ)が行われているか、また、いかに発信しやすい状況をブランド側がつくれているかどうかです。

ナラティブの効果

 SNSのフォロー・フォロワー関係は入り組んでいる

SNSがまだ無かった時代、私たちのソーシャルグラフ(SNSで言うところの人の相関関係)はリアルな交友関係に閉じていました。友達、家族、恋人、同僚など、こういった人たちが同時期に同じネタについて言及していると強く興味を持つはずです(例えば、自分を取り巻く全員が特定の映画やテレビ番組について話していると気になって見てみたいと思いますよね?)。

SNSが普及した現代、このソーシャルグラフは大きく、そして多様に広がりました。私たちは1人1人が興味のある人やテーマを対象に複雑にフォローし合っており、情報が到達するソーシャルグラフはまさに十人十色です。ですが逆に、ソーシャルグラフを逆算した情報設計も可能だということです。

ソーシャルグラフ+

 情報を届けたいターゲットとなる人たちの集団(=トライブ)に対して影響力のある複数の人々がそれぞれの視点から同じネタについて語ってくれると「多面ナラティブ共感」の状態に近づきます。

実際、ある集団に影響力のある複数のインフルエンサーを起用して情報発信をしたところ、異なるインフルエンサーから多く情報を受け取った集団の方が、情報の接触回数が少なかった集団に比べて態度変容が起こりやすいというデータも得られています(グラフ参照)。

つまり、多様化するソーシャルグラフを形成するSNS時代においては、あえて特定のカテゴリ・ジャンルに届く情報発信を重複させることが効果的で、逆に広く浅くコミュニケーションしてしまうと、1人あたりに重複して到達する情報量が減るため、結果的に効果が落ちてしまうということになります。例としてインフルエンサーマーケティングで説明しましたが、生活者の発信においても同様で、影響力を考えるとより多くの人のナラティブと共感性が必要となります。

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SNSを起点にブランドが発見され、ストーリーで選ばれる

Shopifyの【Future of Commerce:2021年 5つの主要トレンド予測】のデータを見ると、SNSを通じてブランドを見つけて買い物をする人が、若い消費者で54%と高く、中年層(35~54歳)でも43%という結果になっています。私自身もSNS上でブランドを発見するケースが非常に多くなっているので、いち生活者としても同じ感覚です。

データから見ても情報洪水が起きているSNS時代に、生活者にブランドが発見されるには、SNS上でいかに顧客や生活者に語られるか。そしてそのストーリーの共感性が非常に重要です。

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(引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000034630.html )

熱量は高いところから低いところへ伝わる

熱量の高いコアファンを抱えるブランドの場合、ファンの熱量を刺激して多面ナラティブ共感を作り出すことも可能です。インフルエンサーに頼らず自然発生的にナラティブを形成するには、熱量の伝達の仕組みを理解しておくと良いでしょう。物理の世界でも熱は高いところから低いところへ移動するように、SNS上のコミュニティでも熱量は高いところから低いところに流れていきます。コアファンの求めていることやインサイトを理解し、コアファンの琴線に触れることができる商品開発やコンテンツ提供、情報発信などができれば、熱量を持って反応し、ナラティブが形成されていくはずです。 

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 ファンが熱量もって情報を広げてくれた事例

・事例1 NHK・民放連 #このラジオがヤバい
まだラジオを聞いたことのない若者にラジオの魅力を届けるため「 #このラジオがヤバい 」 というハッシュタグで自分の好きな番組のラジオ愛を投稿するというキャンペーン。Twitterとラジオの相性が非常に高く、多くのコアラジオファンの投稿をきっかけに、熱量のあるラジオ愛投稿がたくさん生まれた。ラジオファンひとりひとりの、ラジオ番組とのナラティブが発散され、多くの共感が生まれた事例。

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キャンペーン期間中には、60万にも及ぶラジオ愛溢れるエピソードが投稿された。

集まったラジオ愛投稿を冊子にして全国の中高生に配布し、SNSからさらにリアルへ展開。

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・事例2 ヤクルト ヤクルト1000

今年大ブレイクした「Yakult1000」は、私自身も手に取った1人です。Yakult1000を飲んだ人や早くも現れたコアファンによって、ブランド体験のナラティブが非常に語られ、多くの人が購入体験へjoinする大きなうねりが起き、店頭や自販機で売り切れが連発しました。

その他にも、KALDIさんはシーズンごとに新たな商品がSNSでコアファンにどんどん語られ、人気商品が頻出していますし、アサヒビールさんの生ジョッキ缶も多くの購入体験が発されたことで、話題になったのは記憶に新しいです。新しいブランドだけでなく、老舗のブランドでも、今の時代を捉えてナラティブを生み出すことができれば、改めて多くの人に認知・発見される起点になります。

既にコアファンがいる場合だけでなく、ブランドカテゴリ周辺に生活者のイシューが多く存在しているときも熱量を持って意見やブランド周辺の体験ストーリーが多く発信され共感が起きるケースがあります。 

・事例 大王製紙 アテント「もっといいパンツになる」
最近は、イシューをとらえた商品開発やプロジェクトがさまざまなブランドで行われ、そのイシュー・テーマにまつわる議論を生み出しながら、商品やコミュニケーションさえも共創していくプロジェクトが増えてきています。その中でも、イシューを捉えたナラティブが生まれていたのはアテントさんのプロジェクト。「大人用紙パンツ」をはくことへの葛藤を払拭するプロジェクトで、大人用紙パンツに対しての意見や過去の体験をSNSでナラティブとして可視化していきながら、ユーザーとのコミュニケーションでより良い製品づくりを行い、それを発売してさらに体験のナラティブが生まれていった事例です。

大人用紙パンツや介護領域に関しては、実は非常に多くのイシューがSNS上にあり、ユーザー課題も多い語られている領域のため、イシューをついた良いコミュニケーションでした。こうしてブランドへの関与を高めることで、ナラティブの頻度が増えることも共創型の商品開発・コミュニケーションの特徴ですね。

「多面ナラティブ共感」を生み出すプロセス(持ち帰りポイント)

長くなってしまったのでまとめます。2つ目のソーシャルナッジ「多面ナラティブ共感」を生み出すプロセスについて。今回の持ち帰りポイントなので、意識的にこの状態を生み出すために必要なプロセスを画像でまとめます。

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こちらが「多面ナラティブ共感」を生み出すプロセスです。

いかがでしたでしょうか?

次回のnoteではソーシャルナッジの3つ目「ストッカブル正直レビュー」についてご紹介していきます。ご興味のある方はぜひスキとフォローをお願いします。 最後まで読んでいただきありがとうございました。

では、良いソーシャルナッジを!



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