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真夜中の大作戦!【リレーnote9日目】

ずっきーさん主催の真夏のリレーnoteに参加をさせていただきました。
リレーといえば僕には無縁の存在でした。なんせ走るのが苦手だから。
だいたいリレーのちょうど中間くらいの順番で走って、劇的なドラマがあるわけでもない。ということで、少々不安ですが、次のランナーに無事バトンを受け渡すべく無難に走っていこうと思う。

夏といえば、花火、海、浴衣、恋。そんなキラキラワードが世に蔓延っていて、容赦なく襲いかかってくる。そして、ある日突然同志が去っていく。なぜだ、仲間だと思っていたのに!と心の中で叫んでいた思春期。これは紫外線なんか比べ物にならないくらい強力で、10代の僕はカーテンを閉めて、そのキラキラ光線から身を守っていた。おかげで受験勉強ははかどった。

と、このように僕は夏の眩しさとは無縁なまま青春時代を終えた。そうするとどうなるかというと、いろいろと拗らせてくるのだ。以下に記すのは、そんなキラキラ光線とは無縁の一人奮闘記である。ご容赦いただきたい。

本音で自分にコイする時間。さんより僕は、確かにバトンを受け取りましたよ。

それでは、お楽しみください。
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僕は真夜中(midnight)に作戦を決行しなければならなかった。生きて帰ること、それが僕に与えられた使命であった。



気がつくと僕は、暗い冷蔵庫のような場所にいた。

202X年7月某日。僕はものすごい悪寒で目が覚めた。
音も静かだ。そして目の前は真っ暗であり、体は何かで固定されている。そしてものすごく寒い。この日は最高気温が38度とかそんなので、ああ、一瞬でいいから冬が来ないかなあ、とか言いながら友人と飲んでいた気がする。それは覚えている。

頭がぼんやりとしていて状況がうまく飲み込めない。
なぜ僕は体を固定されているのか。真っ暗な場所にいて、ものすごく寒いのか。
もしかしたら、何かの手違いで、今クール宅急便のトラックの中にいて、いつの間にか生鮮食品として輸送されることになってしまったのだと思った。
でも、まだ生きているのだから、そんなに冷やさなくてもいいのにと思った。かえって品質が落ちるのではないだろうか、とそんな妄想をしていたら、ここは夜行バスの車内であることを思い出した。

音が聞こえないのは耳栓をしていたからであり、なにも見えないのはアイマスクをしていたからであった。

落ち着いてきたので、耳栓とアイマスクを外すと、前方に電子時計が見えた。時刻は4時半。

京都に到着するのは6時なので、あと1時間半時間がある。

僕は寒すぎて震えていたのだ。だめだ寒すぎる。
確かに夜行バスは冷えるかもしれないから、何か羽織るものを持って行った方がいいかも、とは思っていた。だが、このクソ暑い中、羽織るものをわざわざカバンに入れるだろうか。そんなことすっかり忘れていたよ。

このままだと確実に風邪をひく。まずいと思った僕は、何か体を温めるものがないか探してみた。

…当然の如くなにもない。持ってきていないのだから仕方がない。
ああ、一瞬でいいからあのうだるような暑さが戻ってきてほしい、と思っていた。僕はあの夏の暑さを欲していた。

だが、そんなことくらいで諦めてはいけない。無事にあと1時間半を乗り切り、万全な状態で京都に上陸したいのだ!

まず思いついたのは、摩擦である。
幸いタオルはあった。これで体を擦り続ければ暖をとることができる。先人の知恵、ありがたく拝借させていただこう。僕は天才だと思った。

「スコスコスコスコスコスコ…」

静寂なバスの車内にこだまする。いやだめだ、流石にこの音はまずい。すぐに中断した。別に変なことをしているわけじゃない。だがここは夜行バスの車内。公共の場所だ。夜中に突然隣からこの音が聞こえてきたら仰天するに違いない。変な誤解を与えてしまってはいけない。
カーテンで仕切られているせいで余計に怪しいんだよ。
だれだよ夜行バスに目隠しのカーテンを導入したのは。

僕は乾布摩擦を断念した。とても悔しかった。甲子園で敗れた球児たちはきっとこんな気持ちで、土を袋につめているのだろう。

考えて、考えて、考える。

さてどうしたものか。震える体をなだめながら僕は考えた。あたたかくなる方法…あった!筋トレだ!

昔芸人さんのラジオか何かで冬は暖房を節約するために寒くなったらとりあえず筋トレをする、そんなこんなでマッチョになったみたいなエピソードを思い出した。

確かに運動をすれば体が温まる。これでいこう。
ただ、条件はかなり厳しい。シートベルトで固定されておりかつ座っている。そしてあまりにもハードすぎてうっかり叫んでしまってもいけない。

まず僕がしたトレーニングは胸のトレーニングだ。といっても腕立てをするわけにはいかないので、両手を体の前に持ってきて、手を合わせていただきますのポーズを取る。そしてここからひたすら左手と右手でバトルをさせる。ひたすらお互いに押し合うことで筋肉が刺激され、体が温まる。結構疲れた。だがまだ寒い。こんな強度じゃ満足できない体になってしまっていたのだ。

大きい筋肉を動かした方が、体が温まるだろうとおもったので、足の筋肉を使うのが良いと思った。
座った状態でできる足のトレーニング。座っているけど座っていなければ負荷がかかる…そうだ空気椅子だ!

シートベルトを少し緩め腰を浮かせる。そのまま足だけに力がかかる状態で、キープ。これは結構きつい、思わず、うっと声が出そうになるが、それはそれで良くないので必死で堪えた。

体が温まってきた。これでなんとかなりそうだと思ったら、急に眠気がきてそのまま眠ってしまった。僕は無事生還することができたのである。

だが、改めて考えてみると、夜行バスで真夜中にこっそり筋トレしているという状況は、なかなかシュルレアリスムな趣があるのではないだろうか。
周りの人は寝ている。一人寒さに耐えるために必死になって運動をする。しかもそのことを誰も知らない。もしかしたらルネ・マグリットはすでにそのような絵を描いているのかもしれないと思ったので、念の為、画集を確認してみたが、近似するような絵画は見つけられなかった。

僕たちの住む世界では、自分が知らないところで、人知れず闘っている人たちがいる。そのことを知っておいてほしい。もしかしたらあなたのために人知れず闘っている人たちがいるかもしれないのだから。(了)
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以上です。ありがとうございました。
えっと、いつもこんなことばかり書いております。大体において僕の人生というものは、失敗ばかりで不器用なのです。もし、興味があるという方は、私のnoteやKindle本、文学フリマで頒布したZINEなどをチェックしていただけると幸いです。

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さて、明日のランナーは、青松里香さんです。
創作大賞のエッセーを読ませていただきましたが、惹き込ませる文章、という感じです。
キラキラな夏のバトンは渡せませんでした。ごめんなさい!



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