【1分小説】私の嫌いなもの
お題:「わたしの嫌いな快楽」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
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「あの。私それ、苦手で」
「それ、って」
「それですよ」
私は後ずさりしながら、ヨシエの腕の中のものを指さした。
ヨシエは私をまじまじと見た。侮蔑するような目で。
「失礼しちゃう、ミーコっていう名前があるのよ。ねえミーコ?」
ヨシエが撫でると、ミーコは応えるようにゴロゴロと鳴いた。
「ちょっとその、私、アレルギーっていうか、その」
後ずさりしているうちに、足が何かに触れた。振り返ると、もう一匹の“それ”がいた。
「ひいいっ!!」
思わず飛びのくと、飛びのいた先にももう一匹。
「ぎゃあっ!」
思わず腰がくだけた。
よく見れば、あっちにも、こっちにも……!
「カナコさん」
ヨシエが私の名前を呼んだ。
「あなた、ここに何しに来たか分かってるの?」
「承知しています。ちゃんとやりますから、仕事は」
「この子たちの世話も仕事のうちよ」
相槌を打つように、ミーコがゴロゴロと鳴く。
「この子たちに何かあったら、クビどころじゃ済まないよ。餌は冷蔵庫。一匹残らず手入れしておくこと」
ヨシエは私を一瞥すると、玄関から出ていった。
ミーコはじゃれるようにこちらに歩み寄る。ミーコの歩いた跡に、謎の粘液が残る。
私は一人、たくさんのゾンビに囲まれた。