見出し画像

【1分小説】つまつま・ようじ

お題:「あきれた妻」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
       ※サービス終了しています
----------------------------------------

 つまようじは、先のとがった方の8割が“ようじ”で、つまむ部分2割が“つま”らしい。
 と、妻が言っていた。

 家に帰ると、こたつの上に異様な光景が広がっていた。
 つまようじの“つま”側のみが大量に散らばっている。

「おめでとう」

 妻はみかんを食べる手を止めない。
 そして大量の“つま”を示して、

「ハーレムだよ」

 などと、のたまう。

 自然とため息も出る。
 勝手にやるのは良いが、片付けるのはいつも僕なのだから。

「で、どれ選ぶ」
「何が?」
「この中から一匹選ぶんだよ」

 妻は再び“つま”を指し示す。
 こちらも疲れているのでいちいち構ってはいられない。
 僕は適当に一つの“つま”をつまみ上げた。

「じゃあこの子で」
「おめでとう!」

 妻は、みかんの食べ過ぎでみかん色になった手で拍手した。

「お幸せに!」
「はいはい」

 僕は荷物を置き、洗面所へ向かう。

「お幸せに!」
「分かったってば」

 “つま”を傍らに置き、蛇口をひねる。
 ドタドタと、足音が迫って来る。

「ねえ、本当にその子でいいの?」

 振り返ると妻がいた。
 やれやれ、と彼女を抱きしめる。

「ただいま」
「おかえり」