【1分小説】雨男が遺したもの
お題:「あいつの雪」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
※サービス終了しています
----------------------------------------
葬式の日は雪だった。それも大雪である。
電車は止まり、道路も渋滞。そのせいで、弔問客は私一人だった。
元々身寄りのないやつだったから、元々訪れる人も少なかったのだろう。
息子と名乗る若い男が喪主だった。子供がいるなんて聞いたこともなかったけれど。
「失礼ですが……」
軽い挨拶の後、下げた頭を上げながら、彼の息子は上目遣いに私を見た。
「親父とは、どういったご関係で」
「ちょいと、貸し借りの縁がありましてね」
彼が身構えたので、私は思わず笑ってしまった。
「ご安心ください。金銭じゃあありませんよ」
*
棺に横たわったあいつは、既に火葬済みかと思うほど、骨ばかりで存在感がなかった。
「失礼」
私は棺に手を伸ばし、あいつの懐に手を突っ込んだ。
「ちょっと、何するんですか!」
懐にはやはり、例のものがあった。私が十年前に貸したもの。
「……てるてる坊主?」
「ええ。晴れ女から雨男へ、貸していたんですよ、こいつを」
ぼろぼろになったてるてる坊主がいとおしかった。
この雪は、雨男だったあいつが降らせたものかもしれなかった。
私がゆっくりお別れできるように。