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【1分小説】雨男が遺したもの

お題:「あいつの雪」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
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葬式の日は雪だった。それも大雪である。
電車は止まり、道路も渋滞。そのせいで、弔問客は私一人だった。
元々身寄りのないやつだったから、元々訪れる人も少なかったのだろう。

息子と名乗る若い男が喪主だった。子供がいるなんて聞いたこともなかったけれど。

「失礼ですが……」

軽い挨拶の後、下げた頭を上げながら、彼の息子は上目遣いに私を見た。

「親父とは、どういったご関係で」

「ちょいと、貸し借りの縁がありましてね」

彼が身構えたので、私は思わず笑ってしまった。

「ご安心ください。金銭じゃあありませんよ」



棺に横たわったあいつは、既に火葬済みかと思うほど、骨ばかりで存在感がなかった。

「失礼」

私は棺に手を伸ばし、あいつの懐に手を突っ込んだ。

「ちょっと、何するんですか!」

懐にはやはり、例のものがあった。私が十年前に貸したもの。

「……てるてる坊主?」

「ええ。晴れ女から雨男へ、貸していたんですよ、こいつを」

ぼろぼろになったてるてる坊主がいとおしかった。

この雪は、雨男だったあいつが降らせたものかもしれなかった。
私がゆっくりお別れできるように。