【5分小説】ハタチ
お題:20歳
お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より
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砂時計のガラスが割れると、パキリと小さな音がして、それから甘いような苦いような不思議な香りが立ち上った。
「この香りは?」
「砂ですよ。熟成するんです」
マスターは砂をコーヒードリッパーにあけた。
砂は一見灰色だが、よく見ると色々な粒が混ざっている。金や銀、青やピンクまである。
「この粒ひとつひとつが、あなたの生きてきた時間ですよ」
「生きてきた、時間」
「そう、生まれてから今日までの20年間。長い時間をかけて混ざり合って、こうして独特な香りになる」
お湯が注がれると、砂が柔らかく膨らみ、温かな湯気が立ち上った。
20年か。思い起こせば、辛いことも悲しいことも、色々なことがあったけれど。
「本当に美味しいんですか?」
あまり自信がない。
「それは、飲んでからのお楽しみ」
砂を通過してドリッパーの下に落ちてきた液体は、夜の色をしていた。
骨のように白いコーヒーカップに、私の生きた20年の時間が注がれる。
「どうぞ」
恐る恐る、カップを手に取る。
「いただきます」
ごくっと飲んでみると、なんだ、そのままの味じゃないか。甘くて苦くて酸っぱくて、色々な時間がぎゅっと詰まっていて。
「どう?」
「美味しくない……でも」
すごく温かい。
そう伝えると、マスターは微笑んだ。
「20歳、おめでとう」