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「シン・オジサン」 第9話

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1993年。

オーガとなった改村中学校の生徒たち約70名は12時間で2,000名近い市民を死傷させた。

かじわら商店の店主、梶原健三と娘の洋子は三奈本地区の生徒19名にOG3システムと呼ばれる細胞の変異装置の発動権限を与え、街を守ろうとした。

しかし、オーガの殺傷能力はOG3のそれを凌駕した。三奈本地区のOG3を発動した生徒たちは必死でオーガと戦ったが、集められた住民を一網打尽にされ、オーガの猛攻を防ぐのが精いっぱいだった。

街の住民だけでなく、OG3の生徒たちも命を落とした。

中学1年生だった佐々木達也は、島ちゃん先輩たちと住民たちの護衛に就いた。家にいた両親と小学生だった妹のゆかりはオーガに殺された。

2人の先輩と同級生の岡山栄人も死んだ。


オーガの変異から5時間後の21時過ぎ。
警察でも自衛隊でもない黒いコスチュームの軍隊がやってきた。おそらく、BroccoRangaの特殊部隊だ。

催涙ガスと麻酔銃を用いて、オーガを捕獲し拘束した。
オーガ達がどこへ移送されたかは知る由もない。

残されたのは累々と転がる遺体と火に包まれた街だった。

生き残ったOG3の生徒たちは梶原健三とその母体の組織である「IMARS」に保護された。

報道では「謎の変異細菌が蔓延」や「反社会勢力による暴動が発生」など事実と異なる情報が流れた。国と市は改村中学校のオーガによる大量虐殺の真実を隠蔽した。

その後、改村市は面積を3つに分割する形で近隣の市町村と統合し、改村市という名前は地図から姿を消した。



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佐々木達也と岡山圭吾が小平に到着したのは午前11時だった。

辰野ユウの自宅兼社屋の資材置き場のスペースでは、中学生と思しき6人とユウが対峙していた。今のところ戦闘の様子は見られないが、ユウはパーカーの左袖をまくっている。OG3の発動準備は出来ているようだ。

「これからガキどもを部活に送りに行かなきゃいけないんだが、急用か?」

ユウは先頭にいる男に向かって話かけた。

「相変わらずマイペースだな辰野。状況が分かっていないようだ。」

「俺は部活の送迎がある。そして、お前らに用事はない。さっさと要件を言えよ桐生。」

桐生は口元を手で押さえて笑いを堪える仕草をした。桐生の隣では加藤が同じように音を立てずに笑っている。

「やはり状況が分かってない。俺たちの気分が高まったら、お前の家族を細切れにする事だって出来るんだぞ。」

ユウは小さくため息をついた。

「だから何なんだ。一緒にマリオカートをやりたいならそう言えばいい。」

「とぼけるのはよせよ。俺たちが何故ここに来たか分かるだろ?」

桐生の顔から笑いが消えた。

達也と圭吾が到着しユウとともに桐生と対峙した。

「知らねぇな。事前に来るって言ってくれりゃあビールをもっと買っといたのに。あ、中学生は飲めないか。」

その時、近くに置いてあったトラックのサイドボードが轟音と共に大きく陥没した。大きな石がぶつかったのだ。トラックは浮き上がり、2メートルほど横に移動した。

「ふざけるのもいい加減にしろ。新型ナノマシンのデータと発動システムが欲しいんだよ。さっさと出せ。」

桐生の口から血の様な液体が流れだした。

「そんなものがあったら出してる。喧嘩で勝てる相手じゃないのは俺も知ってるからな。」

「そうか。八木、辰野の嫁さんと子供に聞いてこい。」

桐生がそう言うと、後ろに立っていた八木の目と口から血のような液体が流れ、禍々しいオーガの姿に変異していった。

ユウと達也は左手首のスイッチを入れ、OG3を起動した。

「ユウ君、86%までの承認は取ってある。」

現在のOG3システムは梶原洋子とIMARSの管理下にあり、個人の意思で起動させることはできない。

能力の開放レベルに応じて承認が必要となり、80%までは洋子の承認のみで開放可能だが、それ以上はIMARSへの稟議が必要となる。開放は敵を撃退する確度を高める一方で、近隣の一般人や建物の破壊行為に繋がるからだ。

さらに、80%まではオーガしか攻撃出来ないようプログラムされているが、80%を越えるとオーガ以外の危険分子を攻撃できる許可が与えられる。

「Oath Generator System ε3 Starting…」

仮に90%以上を開放したとしても、OG3の変異ではオーガに対抗する事は難しい。そこで、IMARSは専用の武器を開発した。

「Hummer 6122. Transfer started.」

ユウが持っている黒い取っ手のようなものの先端が光を放ち、刀身が現れた。


戦国時代の刀匠の末裔とIMARSが共同開発した太刀の刀身は、断面が菱形のような特殊な形状をしている。3D転送技術を使い、刀身部分だけを転送、複製させる事が出来る。ダイヤル操作で刀身の長さや柄や先端の比重を変更可能で、ミリマイクロ単位の振動とパルス電界を発生させオーガの細胞組織を破壊し、再生能力を鈍化させる効果を持つ。


オーガに変異した八木は、跳躍し2階部分から侵入を試みた。

同時に飛び上がったユウはHummer6122で八木の右肩から先を巨大な角ごと切り落とした。

「いってぇえなああああ!!ぶっ殺す!!」

銃弾をはじき返すオーガの体を破壊できる唯一の武器である。
激高した八木は、ユウに襲い掛かろうとしていた。

「いいもん持ってるな。辰野。」

桐生が八木を制した。

「最近は物騒でさ。小学生もGPS付の防犯ブザー持ってんだわ。似たようなもんだ。」

桐生は何やら思案している素振りをした。

「ここじゃないみたいだな。辰野。悪かった。今度は久しぶりにマリオカートでもしよう。」

ユウは小さくため息をついた。

「お前とマリオカートをした記憶はないけどな。」

流血する八木を抱えるようにして、桐生達は立ち去った。



桐生たちが探している「新しいナノマシン」とは!?
達也たちはオーガとの闘いに勝利する事ができるのか!?
オーガとOG3の違いとは⁉

Part10に続く!!


※勝手にエンディングテーマ曲を決めました。


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