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昔話 ライター修行 その28

迷編集者の面々


 ちょっと前まで流れていたCMに、作家と若い編集者の会話シーンが使われていた。

編集者「な~んか、古いんですよね。な~んか」
   (といいつつ、作家の原稿をテーブルにぽーんと投げる)
作家 「なんかって、どのへんが?」
   (怒りをこらえた笑顔)
編集者「な~んか、カンカクが……」

 うろ覚えだけれど、だいたいこんな感じ。「カンカク」を「感覚」だと思わせておいて、実は「勧角」(?)なる会社の宣伝というヤツ。

 作家には、作家とタレント活動を両立している筒井康隆氏を起用していて、かなりリアル。思わず「おいおい、こんなの筒井さんによく出演依頼したなあ」
 とヒヤヒヤしてしまうシロモノだ。

 さすがに作家さんについている担当者で、あんな失礼な編集者はいないだろうが(というより、すぐさま作家さんの逆鱗に触れて、担当を降ろされてしまうだろう)、ライター相手の編集者となると、いろ~んな人がいる。

 もちろん常識的で、私たちが仕事をしやすいようにあれこれ気を配ってくれる人がほとんどだけれど、それでもやっぱりいろ~んな人がいるのだ(涙)。

 最近、一番びっくりしたのは一度設定した締め切りの日を急に
「有給取って、彼女と沖縄に旅行に行くから、どうしてもどうしてもその前に、入稿して行きたいんです」
 という理由で、1週間も前倒ししたあげく、取材から戻った足で必死の思いで書き上げた原稿を送ったのに、うんともすんとも応答ナシだった編集者Aクン。

「ちゃんと旅行前に入稿できたかなあ」
 と、気をもんで何度も携帯電話にメッセージを入れたのだが、それでも返事はない。そしてその1週間と1日後、つまり本当のしめきりの翌日、
「今日戻ってきました~。沖縄、超よかったっすよ~。マジ楽しかったっす~。原稿バッチシ着いてました~。これから入稿しま~す♪」
 と、私の留守番電話にメッセージを入れてきた。

 君が有給取って旅行に行くのは全然、OK。編集部的には、入稿時期と重なっていてブーイングが鳴り響いていたらしいけど、いつも深夜まで(ひどいときは朝まで)原稿待ちをさせている森下としては、彼女とのラブラブ旅行には恩返しの意味で、ぜひともご協力したいところ。でも、でも、でもさあ、旅行前に入稿しないなら、もっといえば、本当の締め切りの翌日でも間に合うんだったら、なんで1週間(と1日)も前に、絶対原稿出せ、なんていうわけ?

 さらにだ。素直に「彼女と旅行」と申告するのは、イマドキの若者の美点なのかもしれない。けれどウソも方便っていうじゃない? 「出張なので」といってくれれば腹立ち度は少しは収まっただろうに。

 さらにいえば、もし入稿はしなくても、せめて出発前にざっと原稿を眺めて「受け取りました」の連絡ぐらい、入れられなかったわけ? さらにさらに言っちゃえば、沖縄って携帯電話通じるよなあ~。心配して何度もライターから原稿確認のメッセージが入ったら、ひとこと返事をくれてもよかったんじゃないのぉ? 

 もっともっといっちゃえば、帰ってきてからのお返事に「これから入稿しまーす」のひとことはいらなかったのでは……。などとグズグズと心の中でグチをたれる小心者ライター・森下。

 同世代の友だちのライターは、先日うちに怒り狂って電話をかけてきた。
「ちょっと聞いてよ! 今日さ、某編集部の編集者で一度も仕事をしたことない人から電話がかかってきたんだけど、めっちゃ失礼なの!

『○○さんですか? あの~、○×について教えて欲しいんですけど、いつ編集部に来れますか?』
 っていきなりいうのよ。
『はあ?』
 って聞き返したんだけど、全然相手は動揺してないの。
『今日はムリですか? 明日は午後なら私は大丈夫なんですけど』
 だって」(友人ライター)

「それってさ、お仕事の依頼かなんかなわけ?」(森下)
「私もそうかな、と思って聞いてみたわよ。
『それは○×について取材して原稿を書けというお仕事の依頼ですか?』
 って。そしたら
『いや別にそういうわけじゃないんですけど、○×関係のことなら、あなたが詳しいからって編集部の同僚に教えてもらったんで、ちょっと教えてもらおうかなって』
 っていうの。人に何か教えてもらおうって態度じゃないでしょ? おまけに今日、明日にも編集部に来いってどういうこと?」(友人ライター)

 説明しておくが、私も友人も特定の編集部には所属していないフリーのライターである。私たちは、編集部から特定の拘束料をもらっているわけでもなければ、定期的にお仕事をもらえるという契約をしているわけでもない。私たちの収入源はあくまで書いた原稿に応じた原稿料というわけ。

「あんまり頭に来たから
『その件について、あなたにレクチャーした場合、私に対してのギャランティーは、発生するんでしょうか?』
 って事務的に聞いてやったわよ。そしたらね、そいつ、なんていったと思う?
『え~、話すだけでお金取るんですかぁ? じゃあ、いいです』
 っていって、電話切ったのよ!!!!!」(絶叫する友人ライター)

 う~む、なんともはや……。彼女も私同様、お声がかかったお仕事は断れないタイプの小心者だ。電話をしてきた新米(たぶん)編集者が、もっと常識的な態度で、
「お話をうかがいたいんですが、お時間いただけませんか?」
 くらいのことを言ってくれたら、気持ちよく教えてあげただろうに。合掌。
「イマドキの若者は……」
 なあんていうようになったら、人間老けてきた証拠だというが、どうも私たちのジョーシキがまるで通用しないイマドキ編集者が増殖中のようだ。

 だがしかし、もっともっとライターにとって "とほほ" な編集者がいる。それは、忙しさにかまけて、原稿料支払いの手続きをずるずると先延ばしにするタイプだ。本人は出版社の社員なので、毎月高額なお給料が自動的にはいるから、痛くもかゆくもないんだろうが、私たちにとってはまさに死活問題。

 原稿料は通常でも、原稿を書いてから最短で1ヶ月後にしか振り込まれない。それが編集者の "うっかり" ミスで、2ヶ月3ヶ月、4ヶ月、へたすると半年後になってしまったら、ライターは生きていけないのだ。いや、まだ原稿料の払い忘れがあることを覚えていてくれるうちはまだいい。

 先延ばしにするうちに、払ってなかったことすら都合良く忘れてくれる編集者もなかにはいて、小心者ライターは、身もだえしながら、悪いことでもしたような(借金を切り出すような)気分で、原稿料の催促をすることになるのだ。

 この手のタイプの編集者は、概してお調子者であることが多い。
「あの~、なんだか4ヶ月前の原稿料が、入ってないみたいなんですが……」
 と切り出すと

「ああ、ごめんごめん。うっかり忘れてた~。今日、伝票切っとくから」
 と安請け合い。ライター側は
「いつお金が入るかなあ」
 と、首を長~くして待つのだが、1ヶ月経っても音沙汰ナシ。お財布事情も切羽詰まってきて、再度、前回よりますます気まずい思いで電話をすると
「あ~ごめん、すぐやっとくから!」
 と、なんの罪悪感もなさげに、さわやかにおっしゃるのだ。カンベンしてくれよう、本当に……。

 こんな編集者が、連載の担当者だったりすると大変だ。不規則に原稿料が振り込まれるため、いったいいつの分をもらっていつの分がまだなのかわからなくなってしまうこともしばしばだ。

 実は森下、今年の秋にこのタイプの編集者が部署(編集部)を異動になり、3~4ヶ月分の原稿料が、いまだにもらえていない。携帯電話にメッセージを残しても、メールしても返事はないし、異動先の編集部に電話しても "席を外しております" といわれるばかり。悪い人じゃないとは思っているが、これだけ返事も振り込みもないと "まさかバックレ? 踏み倒すつもりでは?" と疑心暗鬼になってしまう。ちなみにこの編集者が在籍する出版社は、大手中の大手。別に会社の経営が苦しくて、原稿料が遅れているというわけでは絶対ない。

 正面切って文句は言えないものの、生活がかかっている森下は、ストレス溜まりまくり。
「そんなことばっかりしてると、新編集部に大きな文字で "原稿料、払ってください" って書いた紙、何十枚もファックスしちゃうぞ!」
 なあんて、できもしない復讐を心の中であれこれ想像し、どす黒い闘志を燃やしていたりするのである。

 小心者のライターも絶体絶命のピンチに陥れば、いつか噛みつく、かもしれない。編集者の皆様、心されたし。なあんて、こんなところでつぶやいている私は、正真正銘の小心者だ。

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