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昔話 ライター修行 その59

恐怖の電話取材 その4


 女性誌の名前は、なんだかこっぱずかしいものが多い。そんな雑誌があるってことを知らない人には、意味不明なものもいっぱいだ。電話取材での難関のひとつは、私がお仕事している雑誌を全然知らない人に、その名前を告げて、理解してもらうことにもある。

 ある生活誌で、地方の産地から直送されるおいしいものを紹介する記事を作ったのだけど、このときも大変だった。北海道の漁業組合に電話をかけて「もしもし。こちら『◎◎◎クラブ』という雑誌の記者をしております、森下と申しますが……」
 と名乗ると
「あ~ん? なんだってえ?」(ボリューム105くらいの大きなしゃがれ声)

「あの、『◎◎◎クラブ』ですがぁ~」(こっちも負けずに大声)
「クラブぅ? 新しくできたね~ちゃんのいる店かぁ? おらあそういう店とは関係ねえからっ!」
 ガチャリ。1回目は見事に切られた。でもこのくらいでメゲちゃいけない。

「もしもし、もしもしっ、あの、切らないでくださいね。私は飲み屋じゃないんです。東京の雑誌社の者で、そちらの産直のお魚を紹介させていただきたいんです! 雑誌なんです! 雑誌っ!」
「あ~ん? 雑誌け? うちは広告なんか載せねえよっ!」
 またまた切られそうなところを、必死で説得。

「広告じゃないんですよ~! 取材をさせていただきたいんです。こちらの記事として、そちらからお魚が買えるってことをご紹介させていただきたいんです~!!!!!」(絶叫)。

 置きかけた受話器を、耳に当て直したおじさんに、電話口で "撮影用にサンプルを送って下さい" だの "通販の方法や連絡先を教えてください" と聞いてもラチはあきにくい。

「とりあえずですね、詳しくご説明したメモをお送りしますので、そちらのFAXナンバーを教えていただけますか? お読みいただいたころに、またお電話いたします~」

 妙に取材慣れしたお店の取材にも難点はあるけれど(ものすご~く細かかったり、取材担当者が勝手に撮影を仕切っちゃったり、店長が出たがりやさんでカメラの前にシャシャリ出てきて動かなかったり、撮影した写真をあとで何枚も請求してきたりと、もめるケースがけっこうある)、取材初体験のところばかり、20軒も電話をかけなきゃならない日には、朝起きたときからお腹が痛い。

 だけど、それほど会社が大きくなくて「広報」担当者がいないところが、スムーズに対応できないのは仕方ないことだと思う(ちなみに雑誌を出してる出版社にも、広報という部署がある会社はほとんどない。不思議だけど)。

 でもわざわざ「広報(あるいは報道担当)」という部署を置いているにもかかわらず、対応がと~んでもない会社がいっぱいあるのはなぜなんだろう。何度電話をかけても "留守番" と自称するおじさんが
「すいませんね~、みんな出払っちゃってて」
 というばかりで、伝言すらも
「いや~、誰に伝えればいいかわかんないから」
 断られたりする。

 必死でFAXナンバーを聞き出して、用件を送っても梨のつぶて。困ったあげくにweb上のその会社のサイトを見つけて "お問い合わせ" とあるメアドにメッセージを送っても、なんの返事もなかったりする。

 電話に出ても
「え? それってうちの商品なんでしょうか?」(だってラベルにおたくの会社名が書いてあるんですけど……)
「う~ん、それについては把握してませんねえ」
 なんていう役に立たない広報担当者は掃いて捨てるほどいる。業を煮やして
「事情を把握している部署の方のご連絡先を教えていただけませんか?」
 と、切り出すと
「いや、それは広報を通していただかないと。直接のお問い合わせは、ちょっと……」
 だって。

「それではその部署の方に、この案件についてそちらで問い合わせていただけませんか? そしてわかり次第、教えていただけませんでしょうか」
 僭越ながら広報のお仕事について、教えて差し上げると
「え~、私が聞くんですか? でも担当の人が誰だったか……。忙しいんですよねぇ、あの部署は」

 森下が教えて欲しい情報が、社外秘だというならしょうがない。だけど、この製品の材質がなにかを聞いてるだけなんですけど……。


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