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昔話 ライター修行 その45

★ 超ド級シャネラー①


 女性なら誰もが知っているブランド・シャネル。革製のバッグなら、最低でもおひとつ15万円以上というフランスの高級ブランドだ。

 バブル時代、シャネルに惚れ込んで、シャネルグッズを買い漁る女性を称して「シャネラー」というようになった(ちなみに、グッチ好きな女を「グッチャー」とも呼んだっけ)。

[注釈]「シャネラー」「グッチャー」なる言葉が誕生したのは、90年代後半のこと。今や死語。

 その「シャネラー」という言葉が誕生した当時、森下も女性誌で、シャネラー&グッチャー、さらにはエルメスなどが大好きな女のコたちの「ブランド自慢」取材を山ほどこなした。

 なかでもイチバン印象的だったのが、関西のブランド好きの生態だ。関東ではとてもお目にかかれない超個性的な女のコに立て続けに遭遇し、森下は強~いカルチャーショックを受けた。

 関西の女のコは、同じブランド好きでも関東ギャルとは質が違う。
 まずは、派手好き。お店の人もいっていたけれど、関東は黒・ベージュ、茶などの「定番」色が人気なのに比べ、関西では派手な色・デザインから売れていくそうな。

 ブランドもの自慢の撮影のため、出張した関西のスタジオにお越しいただいたお嬢様方は、どなたも全身原色系、またはショッキングカラー、全身柄入りという超カラフルないでたちで、颯爽と登場した。関東でありがちなモノトーン系ファッションの人はひとりもいなかった。

 また、はっきりとドコのブランドかわかる「ロゴ」が大きければ大きいほど、関西ギャルはお気に入りのようだ。

「ロゴやマークが入ってへんかったら、高いお金出して買う意味ないやん。パッと見て "あの人ええもん着てはるなあ" てわかるのがええの」
 と、きっぱり言い切るお嬢様も。

 一見、どこのブランドものかわからないシンプルなコートを好んでお召しになり、レストランなどで脱いだとき、一瞬チラリと見える背中のタグで「おおっ、シャネル!」と驚かれることに、イバリの価値を見いだす関東ブランド派とは、エライ違いだ(結局、自慢したいのは同じなんだけどね)。

 さらに。関西のお嬢様方はブランド物を「いかに安く」買ったかを、堂々と自慢する。逆に関東は、並行輸入系のショップでお安く買ったことをひた隠しにする。このあたり、さすが「商人」の街という感じだろうか。

 そんな関西ブランド好き女性のなかでも、超ド級のシャネラー4人は、忘れようにも忘れられない。まずは、お母様が芦屋でブランドものの並行輸入ショップをしているという亜美ちゃん。

 スタジオに現れた彼女は、当時「レアもの」といわれ、日本ではほとんど手に入らないシャネルのムートンバッグに今シーズンもののスポーティなパンツスーツ、これまたレアもののブーツ姿、頭にはでっかいシャネルマーク入りのサングラスを乗せて現れた。

 付き添いでやってこられたお母様も、時計からバッグアクセにお洋服まで、全身シャネル尽くしだった。

 撮影用に持ってきていただいたシャネルは、すべて今シーズンものの最新型。おばあさまもシャネル好きなこの一家、なんとパリのシャネル本店の店長とも懇意にしているらしく
「仕入れでパリのシャネルに行くと、店長さんとお食事をご一緒することもあるんです」
 と、さらりとおっしゃった。

 パリのコレクションに招かれた人だけがおみやげとしてもらったシャネルのラベルつきワインだの、特製のお帽子だの、見たことないものばかりがざっくざく。

 さすがお店をなさっているだけあって、バッグは詰め物をしたあと専用のケースに入れ、おばあさまから譲られたというアクセサリーもピッカピカ。正当派コレクターという印象を受けた。

 これと正反対だったのが、お宅に撮影におじゃました奈緒ちゃん。駐車場にはベンツにBMW、ボルボが並び、部屋の数は18もあるという(なんと、洗濯室という部屋があった!)超豪邸にお住まいのお嬢様だ。シャネルもうんざりするほどお持ちだったけれど、その扱いときたらゾンザイそのもの。

「ちょっと待っててね」
 と、撮影用にシャネルのコレクションを奥の部屋から持ってきてくれたのだが、適当に棚にでもつっこんであるようで、バッグは型くずれしまくり。

 アクセは鎖がからまりあって、ほどくのに苦労した。当時、シャネルファンの間では、超レアものとして垂涎の的だった折り畳み傘も、彼女にとっては「ただの傘」。
「これ、雨降りの日に差したら雨漏りすんねん。使えへんわ、こんなん!」
 と、放り投げる。ま、それはそうなんだけど。

                              続く



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