BOOK REVIEW vol.017 エレガントな毒の吐き方-脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術-
今回のブックレビューは、 中野信子さんの『エレガントな毒の吐き方-脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術-』です!今回も星読み係 yujiさんの“ライブ選書”の中から選ばせていただきました^^
論破より互恵関係。
コミュニケーション巧者な京都人に学ぶ「本音の伝え方」
京都人の巧みなコミュニケーション能力について分析、考察されている一冊。内容もとても分かりやすく、シチュエーション別に「こんな時、京都人ならどうする?」といったクイズも差し込まれているので、京都式の返し方の一例やその解説を楽しみながら、ものの数時間で読めてしまった。
京都と言えば、よく耳にするのは“イケズ”のイメージ。京都人のはんなりとした京ことばで、薄っすら笑みを浮かべながら何かを褒められたら、「今の言葉の裏は何!?」とつい勘繰ってしまいたくなるのは、きっと私だけではないはず。
実際、数年前まで20年近く京都に住んでいた私。京都は“学生の街”と言われるほど多くの大学が在り、全国各地から人が集まる土地ではあるけれど、私の仲の良い友人や、仕事でとてもお世話になった方々を思い返してみると、生粋の京都人の方が圧倒的に多いことが分かった(出身地は“洛中”に限らず、桂、松尾、西賀茂、伏見、亀岡とさまざま)。京都の方と居ると、不思議と居心地が良いのは何故だろう。
私自身、18歳までは本音も不満もストレートに伝え合う環境にいたせいか、京都に住み始めたときは、京都式の「本音の伝え方(=毒の吐き方)」のやわらかさに衝撃を受けた。相手を思いやり、NOと言わずにNOを伝える気遣いに感動したし、それまで毎日のように食らっていた言葉のストレートパンチに、実はとても傷ついていたことに気づくきっかけにもなった。
なぜNOと言わずにNOを伝える必要があるのか?その一つの理由として、著者の中野さんが本の中で書かれているのは、京都では家同士が“300年ぐらいお隣さん”ということもあり得る環境だから。ストレートに本音を伝え、論破しようものならご近所トラブルで大変なことになる。やんわりと毒を伝えるコミュニケーション方法が必要で、それが次第に洗練されていき、現在に至っていると想像できる。
以前、勤務していた職場でも、生粋の京都人である上司の接客対応には目を見張るものがあった。取引先からの無茶な依頼にも、丁寧な口調で、相手を傷つけないように一時的に自分を下げながら、絶妙なあいまいさ(表現が難しい)でうまーくお断りするので、相手も嫌な気持ちにならないし、トラブルも少ない。「すごいなぁ」と感心していると、相手が帰られた直後「はぁ〜、けったいなお人やなぁ」と本音を漏らす上司(!)に私はいつも「ぷぷぷ」と笑いを堪えながら仕事をしていたけれど、京都人が裏でストレートに毒を吐く姿を見るのが、実はとても好きだったりする(笑)
多くの場合において、論破の快感ではなく互恵関係を選び、「また何かあったらよろしくお願いします」と言える関係性を保つ京都の方々。相手を打ち負かそうとする人に囲まれて育った私には、京都の人はまさにコミュニケーション巧者に思えて仕方ない。そんな京都式コミュニケーションを中野さんは科学者の目線から紐解かれており、今までうまく説明できなかった京都人の凄さを分析してもらえたことで、頭の中がとてもスッキリした。
私もご縁があって京都に住み、京都の方々の賢いコミュニケーション術を間近で感じることできたのは良い人生経験だった。けれど京都に住んでいたからといって、私自身がその“いろは”を吸収できたかどうかは…また別の話。千年の歴史を持つ京の都に、たかだか20年住んだ程度では、まだまだ「よそさん」。生粋の京都人の足元にも及ばないのである(笑)
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