デザインの実践知と多様な在り方を俯瞰する本【デザインマネジメント論】
デザイン経営、サービスデザイン、CBO(Chief Branding Officer)など、ビジネスの世界でもデザインの重要性を説くキーワードが多数出てきています。
デザイン、という言葉一つとっても人によって使い方や捉え方が異なる中で、「デザインマネジメント」として現状のビジネスとデザインを取り巻く環境を俯瞰した本があるのでご紹介です。
今回の本
八重樫文 (著), 安藤拓生 (著)『デザインマネジメント論 (ワードマップ) 』(新曜社、2018年)
変化し続けるビジネスにおけるデザインの同時代的な意義を明らかにし、活用する分野「デザインマネジメント」。
その理論体系を、初学者や一般読者も想定して、39のキーワードで体系的・俯瞰的に紹介。
世界の多様なデザインの思考方法と知見をビジネス・社会に還元するために。
内容
「はじめに」の部分でデザインマネジメントという言葉と使われ方について概観して、本文では39のキーワード(デザイン思考、人間中心デザイン、プロトタイピングなど)に区分して昨今よく使われるデザインの用語について俯瞰して解説がなされます。
「ビジネスにおいてデザインが重要である」というある種自明な発見から広がる様々なデザインの実践知に対して、「デザインマネジメント」として捉えられていきます。
時代と社会の変化を捉えビジネスにおけるデザインの同時代的な意義を明らかにし、それらを企業・組織においてよく活用しようとする分野が「デザインマネジメント」である。
ざっくり見ると、学術(経営学・デザイン学)の知見と現場のデザイナー(企業・個人)の実践知を掛け合わせる分野かなという印象です。
気になる部分
キーワードごとに4ページ程度の解説なので全体としては用語集という印象ですが、気になったワードは下記の部分です。
I-6 組織デザインと人的資源管理
企業のデザイン部門のあり方として、大きく分けて「インハウス型」と「外部組織型」がある。
人的資源管理のあり方として、デザイン部門・デザイン会社のような「集中型」の配置と組織の中のそれぞれの部門に配置する「分散型」がある。
デザインマネジメントにおいてデザイナーをどのような人材と捉えるかによってデザインマネジメントの方法が変わると言う話です。
人材を「人財」と書くように、企業は法人なので人の集まり、人をイメージした母体です。デザイナーをどのような人だと捉えるかによって成果物も変わってきますね。
ⅱ-6 クリエイティブ・コミュニティ -オープンなアイデア資源の活用
企業が自社内だけで製品開発を完結させず、外部とのネットワークで開発を行うオープンイノベーションが広がってきている。
アイデアや問題をオープンに議論して解決するクリエイティブ・コミュニティも世界中に広がってきていると言う話です。
スバルがトヨタとの共同開発で初のEVのソルテラを開発したのも身近な例かなと思います。
それぞれの会社単体だと事業環境の変化に適応しづらいので、それぞれの強みを活かした開発の体制ですね。
Ⅳ-4 思考方法としてのデザイン理論 -デザイン自体のディシプリン・知識・文化
ナイジェル・クロスの考えるデザイン方法論と、デザイナーの持つべき八つのデザイン能力の定義が紹介されています。
その八つとは、
1. 新しく予期されていないソリューションを創造すること
2.実践の問題に対して想像力と建設的な見通しをもって提案できること
3.問題解決にスケッチやモデルといった造形媒体を用いること
4.限定された情報と不確実性の中で意思決定を行えること
5.構造化されていない問題やウィキッド・プログレム(厄介な問題)を解決すること
6.ソリューションに焦点を当てた戦略を適応すること
7.生産的/創造的思考を取り入れ、
8.グラフィックや空間的な造形媒体を用いること
です。
7と8ぐらいは日常の業務でも実践はできていますが、1〜6の部分はなかなか難しいですね。
ウィキッド・プログレムか……
終わりに
コンテンポラリーデザインの本を先日読んでいましたが、実務におけるデザインの実践と、学術的なフィールドや大量生産を前提としないデザインの在り方はだいぶ様子が異なります。
それは表に出てくるデザインの見た目もそうですが、交わされる言葉も同様です。
本書は、人々のあいだにそれぞれ複数形の世界があるコンテンポラリーないまの社会の中で、より問題を腑分けして考え、全体を俯瞰して見るために役に立つキーワード集だと思います。
デザイン系ブックガイドもまとめていました。
高度に抽象化された概念の部分と、よりわかりやすい事例集やノウハウの実践の行き来で、デザイン能力の高まりが生まれる気がします。
では。
書籍代となります!