清潔な一枚のシーツが原点の商売の昨今
久々に法事で郷里へ帰省。JR奈良駅南の外れ5分に宿を得た。入口わきの料金表とそのアンドン表示のデザインがナニヲカイワンヤ。色使いは駅裏スナック「紫煙」と同じ趣味だね。
Bookingの割り引きで税込み3,200円。当日周囲は1〜2万円なので助かった。1,990円は、終電逃して呑み明かした人用だな。奈良も終夜営業が増えた。2,990円は推して知るべし。「ご休憩」を刻んでふやして客室に時分割マルチスレッドで稼がせるすごい発想だと感心した。
ではこれはラブホテルなのか?実際の仕様はビジネスとラブホの斬新な混合スタイル!とでもいったところ。ウェルカムスペースやラウンジやサウナもある。部屋はかなり広くてベッドはキングサイズが並ぶ。ただし、閉塞感はないけど客同士の交差を避ける工夫がいくつか。その意図だけが紫色。
コロナ禍のホテル業界の悶々から、ブランド、シティ、ビジネス、カプセル、ゲストハウス、と外様のラブホ .... 下4種の隙間を狙う新しいフォーマットが登場した。最初に気づいたのは2年前の金沢。キャビン内で立てるカプセルからダブルまで種々一軒で選べて21世紀美術館まで徒歩10分。一方、ビジネスとゲストハウスの二次関数に解を求める気が全くないのがブラックホール京都だろう。
手を変え品を変えの飲食業に比べれば、旅館業ははるかに健気な業種だと昔から思っていた。グランド・ホテル形式という説話空間の設定が昔からあるように、ホテルや旅館を舞台にした作品の手堅さは、例えば皺ひとつないベットメイキングの完璧さ、サニタリー他宿泊施設そのものが供える物理的な安心の仕掛けに負うところが大きい。宮古島の外資系高級ヴィラであれアムステルダムの19世紀来の元娼婦宿であれ、清潔で大きな一枚の布と静かな闇を提供するのが原点の商売だから。
今回はあえて日中の高速バスを移動に使ってみたが、学生やバックパッカーの移動手段という10年以上前の印象が、車内設備のイノベーションで全く変わった。シートのなんと快適なことか。料金も新幹線の半額以下。
LCCの定刻出発率も高くなり、価格設定とサービスの組み合わせもリーズナブルに刻まれるようになった。人口減少、所得格差、観光アイテムの多様化、人手不足、リモート商談の普及と出張の減少、外国からの観光客への依存 ... 人の長距離移動とそれに伴う一宿一飯の経済とアメニティの関係はこれからも変わって行くだろう。定年退職後の旅に高速バスとLCCと安宿 ... もちろん年金暮らしの倹約に有効。その語感を物悲しく思う人もいるだろうが、どうしてどうして、テンションの上がる発見が多い。