寺尾紗穂 冬にわかれて 〜曖昧な日常と、存在の儚さと
寺尾紗穂さんの歌声は、冬の朝のような透明感と、凛とした強さとしなやかさ、儚さ、刹那を感じさせる。
彼女の歌をはじめて聴いた時、その歌声が心の襞にすっと入ってきた。
「楕円の夢」のMVに出演している二人の男性は ソケリッサ! という路上生活経験者とダンサー・アオキ裕キ氏で構成されたダンスカンパニーのメンバー。
切なさや寂しさ、時にちょっと世を儚むようなメロディや歌詞は、聴くたびに、心の深いところにある心象風景が浮かび上がってくるような気持ちにさせられる。
80年代生まれの寺尾紗穂さんだけれど、音楽的には70年代の はっぴいえんど や シュガーベイブ の系譜も感じさせる。
それもそのはずというか、寺尾さんの父はシュガーベイブのベーシストだった寺尾次郎さんで、バンド解散後はフランス映画の字幕翻訳をしていたという。
そんな背景も彼女の音楽性を育んだのだろうかと思ったりしたが、お父様とは幼い頃から別居されていて、寺尾さんが生まれる前にお父様はベースも人にあげてしまっていて家には音楽を感じさせるものは全くなかったというので、二世アーティストとは言えないかもしれない。
寺尾さんは文筆家としても活動されていて、お父様が亡くなった後に出版された自伝的エッセイ「彗星の孤独」にはお父様との関係性が伺える記述もあり、自分の生い立ちとも重なる部分があるなと思った。
お父様も好きだったという「ねえ、彗星」
基本的にはピアノだけの弾き語りでも充分に聴かせてくれるアーティストで、各地のわらべ歌なども自分流に取り上げている。
アルバム「わたしの好きなわらべうた」は、郷愁を感じさせる調べと柔らかな歌声に癒される。
物悲しくも美しい「あの山で光るものは」
リズムが面白くて踊りだしたくなるようなアレンジの「七草なつな」
最近は昔よりバンドサウンドを打ち出した曲も多くなってきたように感じる。
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寺尾さんも参加している3ピースバンド 冬にわかれて は、尾崎翠の詩の一節からとったというバンド名も素敵。
寺尾さんの繊細な歌声に、細野晴臣さんや星野源さんのサポートベーシストとしても知られる伊賀航さんとドラマーあだち麗三郎さんによるリズム隊が加わることにより、動的な心地よいグルーヴを生んでいる。
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こうして聴いてゆくと、寺尾さんの曲の最大の魅力は、やはり声と歌詞にあると思う。
サウンドと溶け合い、独特の寂寥感とかエモーショナルな感情が呼び覚まされる。
そして彼女の歌にはいつも、孤独にそっと寄り添うかのような優しさがある。
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