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猫カフェで、うちの子を想う

愛猫が旅立ってから一年半が過ぎた。
ふわふわとモフモフが全然足りない…猫湯たんぽの温もりが恋しい季節になった。
そんなわけで先日、初めて猫カフェへ行ってみた。
猫が家に居た時は、わざわざ行ってみたいとは思わなかった場所だ。

この国では猫カフェは珍しく、私の住む街にも一軒しかない。
お店は完全予約制で、指定されている時間を事前に予約して行った。
お店のドアはインターフォンを押さないと開かないようになっていて、内扉もあり、猫の脱走防止にも注意が払われていた。

平日の昼間だというのに、お年寄りから若者、カップルや学校帰りの子供などが次々来店し大盛況だ。
この国ではペットショップでの生体販売は行われておらず、ペットを飼いたい人は直接ブリーダーからか、保護シェルターから引き取る方法しかない。街には野良猫も全くいない。それは良い事なのだけど、猫は散歩もしないので、日頃から外で猫に触れる機会がない。

猫カフェの店内では、猫が自分からテーブルに来るまで待つようになどのルールを皆んな守って、騒ぐ人もおらず静かに猫を愛でている。
猫達は、店内を自由に走り回ったり、テーブルにジャンプしたり、寝そべって眠っていたり、気が向けば客の足元に来てスリスリしてくれるので、皆んなじっと猫達を待っている。
写真を撮るのはフラッシュなしならOKなので、猫が通りかかるたんびに、一斉にシャッターボタンを押すけれど、すばしっこい猫達の動きを撮るのは難しくて、ブレブレの写真ばかりになってしまう…。

面白かったのは、広めのトイレに置かれた椅子の上の丸い籠の中で、ニャンモナイトになってずっと寝ている白猫がいて、いつもその子はトイレにいるのか、猫が落ちないように用が済んだら必ず便座の蓋を閉めるように!と注意書きがしてあり、トイレに行った人はもれなく、その大きな白猫を撫で撫でしてから出て来るのだった。
私も撫でたけど、全然ビクともせず全く起きない。久しぶりのふわふわな猫の毛と柔らかな体の感触が懐かしかった。
お腹やプニプニした肉球まで触るのは、自分の猫以外はなかなか許してくれないけれど。

ニャンモナイトとは、どこが頭なのかシッポなのかも分からないくらい猫が丸まって寝ている姿のことを言う。
うちの猫もよくニャンモナイトになって眠っていた。
その平和でまん丸な姿を見るだけで癒され、もふもふな毛の中に顔を埋めると、嫌なことや淋しさも一瞬忘れられた。

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こんな姿を見てしまうと、また猫と一緒に暮らしたい…と思ってしまう。
だけど…もうあんな子には二度と巡り会えないだろう…という心の声が聞こえてくる。うちの子はかなり特殊な猫だった。

どんな風かというと、人間と同じトイレを使う猫だったのだ。
それでも子猫の時は、普通に猫用トイレを使っていた。
人間と同じトイレを使えるようになるというトレーニングがあって、一歳を過ぎた頃に試しに教えたてみたら、人間の真似をするのが好きだったためか、あっという間に覚えたのだ。
もしかすると自分は人間と同じ生き物だと思っていたのかもしれない。
人間の言葉も分かるのか、愛猫の失敗談などを家族と話していると、すぐに私の所にやって来て、もうやめて!と言うように猫手でパチンッと叩くのだった。

今までに何度も、海外にまで引越したけれど、引越し先でも毎回間違えずに人間のトイレでしてくれたので、偉いね〜といつも褒めていた。
便座の縁に器用に飛び乗ると、前脚は前に揃え、後ろ脚は左右に開き、中に落ちないように脚を突っ張って踏ん張っていた。
用を足した後は、猫砂もないのに必ず便座の上で一生懸命に砂を掻く仕草をするのが可愛かった。

そんなわけで、家に猫用トイレを置く必要はなく、人間と同じトイレの水を流すだけでよかったので、だいぶ楽をさせてもらった。
しかし晩年は、腎機能が低下しても人間のトイレではオシッコの状態をちゃんと確認出来なかったせいで発見が遅れ、気づいた時にはもう上手くトイレが出来なくなっていたのは悔やまれる。
もっと早くに気づけていたら、今も愛猫は私の隣にいたかもしれない。

未だにうちのトイレのドアはいつも半開きで便器の蓋も常に上がっている。ずっとそうしていたので、あいかわらず家族の誰も閉めない。愛猫のための習慣が残ったままだ。
トイレのドアを開けると、今もあの子がそこに座っているような気がする。


愛猫がいなくなってから、めっきり夫婦の会話も減った。
以前は、夫や息子にイラッとした時は、愛猫に愚痴を聞いてもらっていた。
思えば、あの子は家族の潤滑油だったんだな。
家族への不満も、あの子を撫でていればスーッと軽くなっていった。

あの子がいなくなってから、ずっと心の中をスースー風が吹いている。
その隙間を埋めるために、だから私はまた猫カフェへ行くだろう。




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