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ドラマ「季節のない街」〜どこへも行けない、どこにも行かない

ずっと観たいと思っていた、宮藤官九郎 脚本・監督「季節のない街」が、やっとテレ東でも始まり、毎週楽しみに観ている。

このドラマはクドカンが長年温めていた企画であり、原作は彼が演劇を始めるきっかけになったと言う山本周五郎の同名小説。
すでに黒澤明監督が「どですかでん」で映画化しているが、今作では、12年前に起きた”ナニ”の災害によって被災し、仮設住宅に暮らす人々に設定が置き換えられている。

主人公の半助は、飼い猫トラと仮設住宅へ潜入し、住人の動向を正体不明のミッキーさん(鶴見辰吾さん)へ報告することで報酬を得ているが、自身も”ナニ”で、漁師だった父と兄、実家も失い、天涯孤独という身の上。
感情があまり顔に出ず淡々としていて、どことなく無気力にも見える半助を演じている池松壮亮さんの自然な演技も良い。半助は、まだ何か内に秘めたものがありそうだ。

世間から切り離されたような、老朽化し落書きだらけのプレハブ仮設住宅に暮らす住人たちは、一癖も二癖もある。

第1話の冒頭から、濱田岳さん演じる六ちゃんは、"どですかでん〜どですかでん〜"と電車の走行音を唱えながら、一心不乱に仮設住宅中を走り回っている。
六ちゃんの運転する電車は誰にも見えず、六ちゃんからも住人の姿は見えていない。
温厚な役柄が多い濱田岳さんだが、彼の目は時に狂気を孕んでいるようにも見え、六ちゃん役はそんなちょっとイっちゃってる岳さんが垣間見えるようで、のっけから目が釘付けになる。
総菜屋を営む母親役の片桐はいりさんとのやりとりも何だかシュール。しかしこの母と息子は強い絆で結ばれている。

街の青年団に半助を引き入れるタツヤ(仲野太賀くん)と、仮設の外にある酒屋で働くオカベ(渡辺大知さん)は半助と年齢も近く、徐々に三人は親しくなってゆく。
タツヤの母親(坂井真紀さん)は、素行の悪い兄(YOUNG DAISさん)だけを溺愛しており、金を無心されれば、タツヤが家族のために貯めたお金も学費も全て渡してしまうシーンでは、"毒親" という言葉が浮かび、それでも母親の愛を求め、家族のために明るく健気に尽くそうとするタツヤが、いじらしい。

第3話では、仮設にさえ入れず野宿するホームレスの親子、インテリの父親(又吉直樹さん)と息子?(大沢一菜ちゃん)も登場。

第4話では、黄色の夫婦(荒川良々さん、MEGUMIさん)と赤の夫婦(増子直純さん、高橋メアリージュンさん)の酔っ払ってばかりの夫達が、ある日入れ替わってしまうが、何事もなかったようにそのまま暮らすのだった。

元ご当地アイドルのみさお(前田敦子さん)と、刷毛職人の沢上(塚地武雅さん)夫婦の5人の子供達の父親は全員違っていて、仮設の住人たちも皆その事を知っている。ついには子供の耳にも入り事実を問われても、夫の沢上は疑いもしないのか、信じたくないのか、それを否定し子供達を可愛がっている。

半助の飼い猫トラが擬人化した”擬トラ”役を演じている皆川猿時さんのビジュアルも強烈で、最初だれか分からなかったほど(笑)サカリのついた”擬トラ”が、所構わずマーキングのシャワーを浴びせ雄叫びをあげる姿に爆笑。
クドカン作品お馴染みの面々も揃い、キャストも盛り沢山だ。

第5話では、半助の隣の部屋にエセセレブのような島さん(藤井隆さん)が越してきて、”けけけふん”の発作を起こすところといい、気に入らない相手には 、おどれぇ!と恫喝する凶暴なワイフといい、街中の注目の的となる。
とても礼儀正しいが得体の知れない島さんと、LiLiCoさん演じるヤサぐれたワイフの夫婦には、闇を感じる。
ある日、半助はミッキーさんから、仮設を取り壊し住民を立ち退かせる話を聞き、自分がその片棒を担いでしまっていることを知る。
そしてどうも、この島という男は一見温厚な顔の裏でミッキーさんを操り、実は街を牛耳っているのでは?という疑惑が出てくるのだがーー



私の出身地は、東日本大震災で被災地と呼ばれた地域なのだが、このドラマを観て、今、実際の仮設住宅はどうなっているのだろうか…と思わず調べてしまった。
現在、プレハブ仮設住宅は全て解体されたようだが、現実として今も故郷へ帰れず避難している人はまだ何万人といる。
それは生まれ育った場所を追われたばかりでなく、それまでのコミュニティにあった人間関係からも切り離されるということであり、自分の意思とは関係なく縁もゆかりもない土地で生活せざるをえない人々の孤独を思った。
実は私の妹も数年、子供達を連れて他の地域へ母子だけで避難していた。
同じ被災地の中でも、残る者、離れる者、両者の間には深い分断があり、それを口にするのも憚られる空気があった。
同じ東北出身者であるクドカンも震災について思うところがあり、たびたび取り上げているのだろうと思う。


六ちゃんは、毎日電車を走らせているものの、"遠くへ行ってはダメ"と母親から教え込まれているので、仮設住宅のある街から外へは絶対に出ようとしない。
しかし、ケガをして迷い込んだ女の子を家に送り届けるために、彼はついに境界線を超えてしまう。
外の街には本物の電車が何本もビュンビュン走っていて、それを見た六ちゃんは足がすくんだまま動けなくなる。彼にとって仮設の街は、安全地帯でもあったのだ。
震災時で時間が止まってしまっているかのような世界から一歩外に出ると、そこには、仮設の街のことなど気にも留めていない、現在進行形の外の街が広がっていて、その対比にも目を見張った。

このドラマの中で描かれる住人たちは、何処にも行けない人たちというよりも、何処にも行きたくない人たちなのではないか。
自分たちが作り上げた居場所、ホームから離れたくないのだ。

仮設住宅の街にある校舎の壁に貼られているのは、船ごと流された半助の父親の、ただひとつ見つかった大漁旗。
それはまるで、このホームタウンを象徴する道しるべのようにも見えた。


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