りんごジュースと就活

ある部活をしている。幣部でのいつかの旅の計画めいたものを昨夜LINEでたのしくやりとりしていた。地名に八戸が出てきて、まだ訪れたことはなくて、でもそういえば三戸には行ったことがあったのをふと思い出した。

なぜ三戸へ行ったのか。大学時代の最初の就活で、とある会社を受けに行ったのだった。当時は(も?)、ミーハーでマスコミ志望だったのだが、超就職氷河期と呼ばれる時代で地方出身の文系女子大に通っていた者には過酷な状況。なのにほわほわしてるし、SPDとかやらないからできないし。(その数年後、某病院の就職試験でまさかのSPDがあり、そこで私は再度泣くことになる)

就職課には「営業職じゃないと総合職につけません、派遣社員も考えるように。」と言われていた。周りは学校推薦や縁故などで金融系、大手などの一般職に内定をキメていく人も多かった。当時、ちょうど航空会社の客室乗務員の新規採用が見送られた年で(年齢がバレる)涙を飲んでいた同期もたくさんいた。その中では割と異色だったかもしれない。かれこれ30社くらいはエントリーした。当時の就活ノートは最近まで捨てられなく持っていた。なぜだか。

ある日、某大手芸能事務所の二次試験を受け(落ちました)、その足で特急に乗って三戸へ向かった。まだ青森新幹線が開通していなかった時代。

三戸に本社がある会社で首都圏の営業職を募集していて、書類を応募したのだった。私の思惑としては自分の地元にその会社の工場とミュージアム的施設があったので、どうにかしたらその展示施設で働けないかなという自分勝手なものであったのだが。

なかなか行けないのだがら青森や三戸について下調べをもっとすればよかったと今になっては思うが全く余裕がなかったし、就職試験だし旅行気分でもなかった。

夜の特急はガラガラで、行商で全国を飛び回ってるというおじさんふたりが話しかけてきて、車内販売のつがるりんごジュースをおごってくれた。たしか「ねぶた」の缶のあれである。

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電車を乗り継いで、まず八戸駅に着いたが、もうあたりはまっくらで特に何をするでもなく、ビジネスホテルのようなところに泊まった。翌日三戸へ行き、就職試験を受けたように思う。会社はこじんまりとしていた。同じように試験を受ける学生は数人だったような。小論文と筆記試験をやり、社長面接があった。

古びているが陽射しが入る会議室に、よくあるように机がコの字型に配置され、社長さんが真ん中に座っていた。何を聞かれたか、ひとつだけおぼえているのは「最近読んだ本はなんですか?」というもので、私は当時読んだ山本周五郎の何か、と答えた。それは割と社長さんの趣味にも近かったようで「そう!いいよね、人情味があるんだよねー。」とおっしゃってくださった。そのひとことに社長さんのあたたかさを感じた。そうこうして面接は終わり(そこしかおぼえていないが)控室のようなところで出されたのり弁当を食べ、帰った。なぜだかのり弁当だった。

三戸駅におばあさんたちがいて、おしゃべりをしていたがその津軽弁がまったくわからなかった。あたりはりんご畑で、ちょうど消毒の時期なのか農薬のにおいがしてたまらなかった。

その会社からは内定はもらえなかったが、それはそうだろうなあとなんとなく腑に落ちたのだった。

さて八戸には来年あたり行けるのでしょうか?

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