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なぜ社外のコンサルが戦略を作れるのか

タイトルは完全に煽りな訳ですが。笑。

でも、本noteではタイトルの問いにちゃんと一つの考え方を示すつもりですので最後まで読んで頂ければと思います。

このnoteであつかう問い

さて、ひとつ前の記事で「CEOの時間配分」というトピックを取り上げました。マイケル・ポーターとニティン・ノーリアの共著論文を引用したわけですが、この論文が明らかにした調査結果のうち、

CEOが全業務時間の中で戦略に使っている時間は全体の21%に過ぎない

という点にぼくは興味を持ちました。そこで今日は、先週のツイッターの内容からは離れますが、

「その会社に詳しくない戦略コンサルタントという部外者が、なぜ戦略を作れるのか」

「戦略コンサルタントが作る戦略を、経営者がなぜ評価するのか」

「戦略コンサルタントは、プロの経営者相手に戦略を作れるほど、頭が良いのか」

というような問いに対し「投下時間」という視点を用いて、ぼくなりの考察を加えてみたいと思います。

経営陣が戦略立案に投下する時間

シンプルにモデル化して考えるために、いまから考える会社をX社とします。CEOが1名、その他に取締役が4名いる会社とします。話が面倒になるので、CSO(Chief Strategy Officer)はいないこととします。

先の引用の通り、CEOの戦略立案に投下する時間は全体の21%です。議論をシンプルにするために20%とします。

近年だと戦略の「賞味期限」は短くなっていると言われています。せいぜい3年とかですかね。仮に3年とすると、過去3年間、20%の時間を使ってきたということで、ざっくり

10時間(1日の労働時間)×20%×250日(1年の労働日数)×3年=1,500時間

を自社の戦略の立案に使ってきたという計算になります。

もちろん、経営は一人でやる訳ではありません。そのほかの4人の取締役も戦略について時間を使っています。但しここでは、CEOほど戦略に時間を使えないと仮定し、それぞれが自分の業務時間の10%の時間を「戦略立案」に投下しているとします。そうすると、

10時間(1日の労働時間)×10%×250日(1年の労働日数)×3年×4人
=3,000時間

となります。つまり、X社の経営陣が「戦略について考えてきた時間」は、過去3年で延べ4,500時間ということになります。

戦略コンサルタントの投下時間

一方、このたび戦略コンサルティング会社のY社が、このX社から戦略策定のプロジェクトを受注したとします。

プロジェクトは3か月で、パートナー(1名)のアサインメント(注)が20%、プリンシパル(1名)が30%、マネージャー(1名)が100%、コンサルタント(4名)が100%とします。

注)アサインメントとはその人の業務時間の何%を使うかという概念です

上記のようなケースを想定すると、戦略コンサルタントチームのプロジェクト期間中の投下時間が計算できます。

パートナー+プリンシパル:
10時間×50%(パートナーとプリンシパルの稼働率計)×63日(3か月の稼働日計)=315時間

マネージャー+メンバー:
10時間×500%(100%×5人)×63日(3か月の稼働日計)=3,150時間

※1日10時間労働で土日も稼働してますが、徹夜とかは想定されてないのでわりとワークライフバランスの良い素敵なプロジェクトですね(棒

ということで、メンバー全員の投下時間は、合計3,465時間となります。


・・・


あれ、足りない💦(笑)


プロジェクトで検討するイシューを限定すると・・・

「足りない」というのはもちろん冗談です。なぜなら、「戦略全部丸ごとお願い!」みたいなプロジェクトはこの世の中にほぼ存在しないからです。

容易に想像できると思いますが、CEOは戦略アジェンダ(イシューとも言います)だけで10も20も抱えています(本当はもっとです)。そして、それらの全てを一人で抱えきることはできないので、取締役陣で分担します。

仮に当該会社の戦略アジェンダが15個あったとします。3個はCEOだけが考えているアジェンダで、残りの12個は、4人の取締役に3つずつ割り振ったとしましょう(12個のアジェンダを担当取締役とCEOが一緒に考える形)。

15個のトップアジェンダのうちの一つを仮に「X社が複数持つ事業のうちの一つであるZ事業の戦略策定」としましょう。Y社が請け負ったのはこのプロジェクトということにします。

では、この「Z事業の戦略策定」に、CEOを含む経営陣が使っている時間を再度計算しなおすとどうなるか。

CEOの投下時間:
1,500時間(CEOが戦略に投下した延べ時間)÷15(担当アジェンダ数)
=100時間

担当取締役の投下時間:
750時間(担当取締役が戦略に投下した延べ時間)÷3(担当アジェンダ数)
=250時間

こうしてみると、この「Z事業の戦略策定」には、現在の経営陣は350時間しか投下することができていないということになります。これは、先ほどの戦略コンサルタントチームの3か月の投下時間のざっくり10分の1です。

まとめ

あまりにシンプルな「時間投下モデル」ではありますが、この考察から言えそうなことに、以下のようなことがあります。

Q1. なぜ戦略コンサルタントは部外者(の素人)なのに戦略を作れるか(そんなに賢いのか)

ここまで読んで頂いたら分かるかと思いますが、このモデルが示す答えとしては以下のようになります。

戦略コンサルタントチームは、戦略策定という経営者のアジェンダに対し、圧倒的な量の時間を投下し、経営陣に対して「時間優位」を作ることで、経営陣が評価する戦略を策定する(少なくともその土俵に乗っている)

常識的に考えて、戦略コンサルタントが経営者の数倍頭が良いということはありません。むしろ、基本的には経営者(経営陣)の方が賢いですし、そもそも論で言うと、賢さの程度なんて誤差の範囲なんじゃないかと、正直なところ個人的には思っています。

むしろ大事なのが投下した資源の量で、ここでいう資源とは時間である、というのがこの議論の結論です。元も子もない話ですが。笑

ちなみに、日本人の特性なのか「首尾よく機転の利く小が大を食らう」みたいなの、みんな好きだと思うんですよね。

三国志演技で言うところの徐庶が曹仁の八門金鎖の陣を破るのとか好きじゃないですか。でも、企業の参謀と呼ばれる戦略コンサルティングの仕事は、意外とそういう感じではないんじゃないか、という話です。

Q2. クライアント側が戦略コンサルタントをうまく活用するには?

もし投下時間の量で戦略コンサルティングチームが優位性を発揮しているとすれば、実はクライアント側にとって大事なことは、依頼するスコープを限定することです。

戦略コンサルティングのお値段は高いので、どうしても「あ、このイシューも、あ、こっちのアジェンダも、同時にお願いしたい!」みたいなプロジェクト設計になってしまうことが時々あります。

そこにクライアントのためなら何でもやってあげたい「うちなら全部できます!やります!」みたいな提案をしてくるコンサルティング会社(というかパートナー)がマッチングすると割と最悪なことが起きます。

パートナーとしても自信がなかったり売上目標を達成していなかったりすると「お値打ち感」でプロジェクトを販売したくなるわけですね(毒

こういうプロジェクトでは、検討しろと言われたアジェンダが多岐に渡り、コンサルタントチームが一つ一つのアジェンダで時間優位を築けず、経営陣としても評価できるような提案が出てこない、みたいな本末転倒な事態になりかねません。

クライアント側は、色々とやってもらいたいという思いをぐっとこらえ、しっかりとイシュー・スコープを限定した形でプロジェクトを発注すると、結果として満足度が高くなったりするように思います。

Q3. 戦略コンサルティングの仕事ってなんで忙しいなの?

最近はそうでもないと聞きますが(最近はぼくの出身ファームはどちらも21時にはほぼ人がいないとか!驚)、ぼくが所属していた頃はどこのファームも一日15時間労働とかはザラだったと思います。

労働時間をとにかく追加すれば時間優位が確立されるかというと現実はそんなこともないのですが(寝ないとパフォーマンスも当然落ちるので)、それでもコンサルタント一人当たりの労働時間を増やしたくなるクライアント・パートナー側の思惑は、、、分かりますよね(笑)。

(ちなみにですが、全く別の要因で投資銀行は戦略コンサルティング会社など比べものにならないぐらい激務だとマックでJKが言ってました)

Q4. コンサルティング会社で働いていない人への示唆は?

この投下時間・時間優位という切り口から組織を眺めると、コンサルティング会社じゃない会社の上司対部下の関係でも、この時間優位をめぐる駆け引き・緊張関係があることが分かります。

上司は必ず部下より広い範囲を見なければいけません。部下が抱えている仕事は、当然上司から見れば抱えているアジェンダのone of themになります。

スコープを絞り過ぎると問題かもしれませんが、どうやって(経験で勝る)上司に対し時間優位を作るかという視点は、もしかしたら役に立つことがあるかもしれません(ちょっと書くの疲れてきたから細かく書くのをあきらめました。最後の方雑でごめんなさい)。

注意事項

こんな感じでしょうか。なお、今日の議論は、繰り返しになりますが「投下時間」というコンセプトをシャープにすべく、かなり簡易にモデル化をしています。

X社側については経営陣の経験や取締役以外の戦略を考える存在(経営企画部)は捨象してますし、Y社(戦略コンサルティングファーム)側については会社内のナレッジの蓄積やパートナーの知見、(インドにいる)リサーチチームなども考えないことにしています。

つまり、「コンサルティングプロジェクト」のパワーバランスとして現実では影響を与えているファクターを少なからず無視しているということです。

ですが、この「時間投下」という観点からコンサルティングファームとクライアント企業の関係を捉えてみることで、いくつか面白い発見があることも否定はできないかと思っています。

最後に&宣伝

ちなみに今日のこの内容は、戦略コンサル3年目ぐらいに考えていた内容で、ずっとどこかで吐き出そう吐き出そうと思いながら貯め込んでいたものでした。ぼくの友人の中には、ぼくがこの議論をしているのを聞いたことがある人も少なくないはず。

なので本日の記事を書いて、個人的にすごくすっきりしました。笑。

宣伝①

うちの会社では学生のインターンも募集しています。関心ある方は是非。手がけている医療系の事業を手伝ってもらうこともあれば、コンサルティングのお手伝いをしてもらうこともあります。

宣伝②

もし冬休みでお時間ある方は、以下の記事なんかもどうぞ(有料w)

ロジカルシンキングが苦手という人のための8つのトレーニング

デザイン思考と戦略思考の違いについて
(こちらについては戦略ファームの仕事の理解が深まるような内容も一部含まれているかと)

おわり。

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