新規事業アイデアのブラッシュアップ

はじめに

前回は新規事業のステップ3である「アイデア絞込」について投稿しました。
今回は新規事業のステップ4である「ブラッシュアップ」の方法について説明していきます。

誰の課題を解決出来そうか?

この文章を読まれている方の中には「アイデアを絞り込んだけど、アイデアをどの様に事業化して行けば良いのか?」と悩まれている方も多いのではないでしょうか。
まずは、そのアイデアを実行すると誰の課題を解決できるのかを考えます。

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アイデアを量産する時に、「自分の課題や、皆の課題を出発点にしたから、自分の課題や、皆の課題を解決できるんじゃないの?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。
ここに、大きな落とし穴が2つあります。

1つ目は、「自分が解決したい課題」が「多くの顧客が解決を望む課題」に直結しない可能性が高い点です。
自己実現や、エンタメとして情報発信していくという世界線であれば、自分の課題を解決するアイデアのまま突っ走るのも、もちろんOKです。
この世界線の場合、製品やサービスの価値を提供することによる売上は、見込めないことが多いです。
しかし、情報発信をすることで、ブログのアフィリエイトや、youtubeへのスポンサーなどの形で広告収入が発生することがあります。
また、自分が解決したい課題の専門性が高い場合、「技術顧問」などの形で専門家サービスを提供できることもあります。
この結果、小さいビジネスとして成功することはあります。
一方で、組織化して、事業をスケールさせていきたいという世界線の場合は、的外れだったり、独りよがりだったりするため、誰も買ってくれないという事態になります。
ここが一つ目の落とし穴になります。
落とし穴を回避するために、そのアイデアを買ってくれそうな人=そのアイデアで解決できるのは誰の課題か?を深掘りする必要があります。

2つ目は、アイデアが持っている価値と、その価値を提供する市場がズレている可能性が高い点です。
①アイデアの発展による価値の変化について
課題を解決するアイデアを量産していると、課題の本質と離れた面白いアイデアが出てくることがあります。
面白いアイデアが一つ出てくると、さらにアイデアが膨らんで行きます。
その結果、以下のマインドマップの様に、最初のアイデアと発展した今のアイデアが遠くなっているケースがあります。
アイデア自体が当初と変化しているため、アイデア自体が持つ価値も変化しています。

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②価値を提供する市場について
例えば、解決する課題に、自分たちの問題である「40代男性の仕事上での困り事」を設定したとします。
そうすると、量産するアイデアは「40代男性の仕事上での困り事」を解決するアイデアになるはずです。
しかし、①で述べた通り、アイデアが持っている価値は当初の設定時から、変化している可能性があります。
つまり、今のアイデアが、出発点である「自分たちの問題」を解決出来るとは限らないということです。
この状況にも関わらず、今のアイデアが、「40代の男性が多い職場に売れる」と、何の疑いも無く次のステップに進むことがあります。
極端な例ですが、イメージにすると以下の様に、全く異なっていることもあります。

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ここが二つ目の落とし穴になります。
落とし穴を回避するために、今のアイデアが持っている価値は何なのか?を深掘りしたり、その価値を提供すると喜ぶのは誰なのか?を再検討したり、する必要があります。

ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバス

アイデアと、そのアイデアが誰の課題を解決できるのか?が見えてきたら、次はビジネスモデルを考えます。
ビジネスモデルを考える時に活用できるフレームワークとして、「ビジネスモデルキャンバス」と「リーンキャンバス」があります。

ビジネスモデルキャンバス
ご存知の方も多いと思いますが、“Business Model Generation”という本の中で紹介されたフレームワークが、ビジネスモデルキャンバスです。

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このフレームワークは、ビジネスの全体像や関係性を1枚で把握出来る様にするという点が特徴です。
それぞれの項目(箱)を簡単に説明します。
①VP(Value Propositions=提供価値)
 絞り込んだアイデアがここに入ります。
 アイデアが弱い場合は、そのアイデアの本質的価値は何か?と深掘りした内容がここに入ります。

②CS(Customer Segment=顧客セグメント)
 上記でご説明した通り、「誰の課題を解決出来そうか?」の答えがここに入ります。

③CH(Channels=チャネル)
 提供価値を顧客セグメントに届ける方法がここに入ります。
 例えば、自社の既存顧客と顧客セグメントが近しい場合は、「自社」となります。
 一方で、顧客セグメントと全く接点が無い場合は、「代理店(小売店)」、「自社EC」、「展示会」、「ショールーム(店舗)」などとなります。
 まずは、代理店でも良いですが、可能であれば具体的な社名を書きましょう。
 ご参考までに、顧客セグメントと接点が無い場合の例としては、BtoB企業がコンシューマ(消費者)向けビジネスを始める場合や、直販を行っていなかったメーカーが直販(D2C)を行う場合などがあります。

④CR(Customer Relationships=顧客との関係)
 顧客との関係を築く方法がここに入ります。
 大きくは、「販売形態」と「チャネルへの流入方法」という2つの視点を入れます。
 販売形態は、売り切り型、ジレットモデル、月謝(定額制)、サブスクなどです。
 チャネルへの流入方法は、対面、電話、DM、広告(TV・ラジオ・Web・雑誌)などです。

⑤KA(Key Activities=主要活動)
 価値を提供するために必要な活動がここに入ります。
 例えば、物を作るメーカーの場合は、「製造活動」となります。
 また、映像・音楽・ゲームなどの配信サービス(サービサー)の場合は、「安定的な配信活動」と「定期的なコンテンツ制作活動」となります。

⑥KR(Key Resources=主な活動資源)
 価値を提供し続けるために必要な資源・資産がここに入ります。
 例えば、メーカーの場合は「機械」や「金型」、サービサーの場合は「人」や「情報(著作権含む)」となります。

⑦KP(Key Partners=主要パートナー)
 主要活動や主な活動資源を継続的に提供して貰える相手がここに入ります。
 例えば、メーカーの場合は「部品や金型の製造工場」、サービサーの場合は「作曲家」、「シナリオライター」、「システムの運用先(クラウドサービサーなど)」となります。

⑧RS(Revenue Streams=収益の流れ)
 売上についての内容がここに入ります。
 大きくは、「お金を貰う相手」、「金額」、「人数」、「方法」の4つの視点が書けると完璧です。
 お金を貰う相手は、利用者、代理店、第三者などです。
 半分ぐらいのビジネスでは、お金を貰う相手は「利用者」になります。
 例えば、映像や音楽などの配信サービスでは、映像を見たり、音楽を聴いたりする人からお金を貰います。
 しかし、残りの半分は、お金を貰う相手が「代理店」や「第三者」に変化します。
 まず、代理店の方は、身近な物では映画やフランチャイズ(ファストフードやコンビニなど)が当てはまります。
 映画は、映画制作会社(1社単独での制作は厳しいため、任意組合である 製作委員会や、SPC(特別目的会社)として出資を募った別会社を作るケースが多いです。)が、映画館、レンタルビデオ店、テレビ局にそれぞれ、上映権、頒布権、公衆送信権を許諾することで収益を上げます。
 また、フランチャイズは、加盟店(フランチャイジー)を募り、加盟店料を得ることで収益を上げます。
 そのため、映画を見る利用者や、商品の購入者から直接お金を貰わず、代理店からお金を貰います。
 次に、第三者の方は、身近な物ではYoutube、(子供向けの)学習塾、人材紹介会社などが当てはまります。
 Youtubeは動画を見る人では無く広告主から、学習塾は学ぶ子供では無く親や祖父母から、人材紹介会社は転職者では無く採用した企業から、それぞれお金を貰います。
 金額は、〇円/月・人、〇万円/台などです。
 人数は、最大値が顧客セグメントの人数となりますが、シェア100%は現実的に難しいため、30~50%程度で見積もるのが良いと思います。
 方法は、BtoBビジネスでは入金サイクル(30日サイト、45日サイトなど)、BtoCビジネスでは入金手段(銀行振込、クレジット払い(電子マネー含む))を明確にします。

⑨CS(Cost Structure=コスト構造)
 コストについての内容がここに入ります。
 大きくは、「お金を支払う相手」、「金額」、「時期(支払サイクル)」の3つの視点が書けると完璧です。
 基本的な考え方は、収益の流れと同じなので、詳しい説明は省略します。

リーンキャンバス
リーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスをベースに作られています。
そのため、見た目はほぼ同じです。

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内容も半分程度は、ビジネスモデルキャンバスと同じです。
ビジネスモデルキャンバスと同じ部分は省略しながら、簡単に説明します。
①価値=VP

②顧客=CS

③チャネル=CH

④優位性
 価値を提供する優位性がここに入ります。
 例えば、回転ずしの様に高級だった物を安価に手軽に味わえると言う、価値やソリューションそのものの優位性(いわゆる、「強み」)となります。
 また、○○先生の監修などと言った専門性・安心感、顧客やチャネルと長年のお付き合いがあると言った関係性なども優位性となります。

⑤ソリューション
 主要活動とほぼ同じですが、ビジネスモデルキャンバスでは価値にポイントがある一方で、リーンキャンバスでは課題にポイントがある点が少し異なります。

⑥指標
 価値を評価する指標がここに入ります。
 ソリューションにより適切な指標は異なりますが、購入率(Web系サービスの場合は、コンバージョン率)、リピート率(継続率)が挙げられます。
 ダイナミックプライシングの様なサービスの場合は、単価や、平均成約時期(価値提供の2カ月前の申込)などが指標となることもあります。

⑦課題
 顧客が抱えている想定または実際の課題がここに入ります。
 基本的には上記のマインドマップの出発点がここに入ります。
 ただし、出発点を深掘りした結果、異なる課題が見つかる場合があるので、その課題をここに入れましょう。

⑧売上=RS

⑨コスト=CS

ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスの使い分け

ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスの2つのフレームワークをご紹介しました。
ただし、今回のブラッシュアップのフェーズで両方を検討する必要は無いです。
考えるアイデアごとにどちらか1つを利用していきます。
使い分ける1つの切り口としては、アイデアの革新性があります。
具体的には、すでに顧客の課題が可視化されて市場が確立されてきており、競合も多くいる場合はビジネスモデルキャンバスです。
逆に市場がまだ確立されておらず、競合もほとんどいない状態の場合はリーンキャンバスです。
なぜこのような分け方かというと、ビジネスモデルキャンバスは、経営資源やパートナー(アライアンス)先など事業で競争優位を持つための構成要素を可視化するものです。
一方で、リーンキャンバスは、顧客の課題や課題に沿ったソリューションを可視化するものです。
これらの違いを踏まえると、成長市場・成熟市場向け事業の場合はビジネスモデルキャンバス、未成熟市場向け事業の場合はリーンキャンバスのほうが検討しやすくなります。

まとめ

今回は、絞り込んだアイデアを事業化するためのブラッシュアップ方法をご紹介しました。
ブラッシュアップすることで、「アイデアとして捨てるべきもの」「アイデアからピボットすることで、事業化出来そうなもの」「アイデアの筋が良く、そのまま事業化出来そうなもの」が見えてきたと思います。
事業化出来そうなものまでたどり着いたけど、本当に事業化出来るのか?また、どの様に確認して行けば良いのか?と悩まれると思います。
そこで、次回は新規事業のステップ5の「仮説立案」の方法をご紹介します。
また、上手くアイデアのブラッシュアップが出来ないという場合は、私たちにお気軽にご相談下さい。
第三者の視点を加えることで、自分たちだけでは気が付かなった点を見つけることが出来たり、「業界の常識」として見落としやすい点を炙り出せたりします。

著:NS.CPA森本 晃弘

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