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『ペスキン・シュレーダー』の著者による、標準模型の全体像を理解する一冊――【近刊紹介】『ペスキン 素粒子物理学』(Michael E. Peskin著、丸 信人 訳)

2022年6月下旬発行予定の新刊書籍、『ペスキン 素粒子物理学』のご紹介です。

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本書は、物質の構成要素やその振る舞いを研究する素粒子物理学、そのなかでもとくに基本的な理論模型とされる「標準模型」について、全体像を理解するための書籍です。

本書の原著者Michael E. Peskinは、場の量子論の名著“An Introduction to Quantum Field Theory”(Daniel V. Schroederとの共著、通称『ペスキン・シュレーダー』)の著者としてご存じの方も多いと思います。『ペスキン・シュレーダー』で解説されている場の量子論は、素粒子物理学の理論を深く調べるためには必要不可欠です。しかし本書では、そのようなハイレベルな解析には踏み込まず、特殊相対性理論と量子力学の最小限の予備知識だけで読み進められるように工夫されているのが特徴です。数式の細かい計算を追うのではなく、素粒子物理学や標準模型の枠組みがどのように構成されているのかが、初学者でもしっかり理解できるようになります。

また、理論を示すだけではなく、それが本当に正しいのかどうか、実験的な観点も織り交ぜて解説されていることも特徴的です。どれだけ精巧な理論が得られたとしても、実験や観測の結果とあっていなければ本当に正しいものとは認められません。本書では、素粒子物理学の研究が始まったころから、ヒッグス粒子やニュートリノ振動といった近年の発見まで、さまざまな実験結果を紹介しています。抽象的な理論を学んでいるのではなく、それが現実の物質を確かに説明しているのだと感じられることと思います。

一方で、実験や観測によって、標準模型では説明できない現象が見つかることもあります。そういった未解決の問題は多く残されており、標準模型を超える物理の探索は現在も盛んに取り組まれています。本書の最終章「エピローグ」では、「標準模型自身の構造に関する問題」「宇宙の描像に関わる問題」「時空の性質に関わる問題」について、探究の手がかりが紹介されています。

これから素粒子物理学を学び始める方や、さらなる研究へ取り組まれる方に読んでいただきたい一冊です。ぜひ一度、手に取ってみてください。
 
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原著:Michael E. Peskin
訳: 丸 信人(大阪公立大)

【目次】
第Ⅰ部 準備と道具
 1 導入
 2 時空の対称性
 3 相対論的波動方程式
 4 水素原子とポジトロニウム
 5 クォーク模型
 6 素粒子の検出器
 7 計算のための道具 

第Ⅱ部 強い相互作用
 8 電子-陽電子対消滅反応
 9 深非弾性電子散乱
 10 グルーオン
 11 量子色力学
 12 パートンとジェット
 13 ハドロンコライダーにおけるQCD
 14 カイラル対称性 

第Ⅲ部 弱い相互作用
 15 弱い相互作用のカレント-カレント模型
 16 自発的対称性の破れをもつゲージ理論
 17 WボソンとZボソン
 18 クォークの世代間混合角と弱い相互作用による崩壊
 19 CP対称性の破れ
 20 ニュートリノ質量と世代間混合
 21 ヒッグスボソン

第Ⅳ部 エピローグ
 22 エピローグ 

付録A 表記法
付録B 換算因子と物理定数
付録C 素粒子の生成消滅公式
付録D 散乱断面積と部分幅のマスター計算公式
付録E ハドロン衝突反応に対するQCD公式

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