見出し画像

『Starbucks Odysseyの「スマートデザイン」志向。NFTを感じさせないUI/UXは今後の本流』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.10.13

■スタバのNFT戦略を大手企業が注目する理由【コラム】

「スターバックス・オデッセイ(Starbucks Odyssey)」と呼ばれるNFT(非代替性トークン)ベースのポイントプログラムをローンチすることで、暗号資産による支払いが日常になる現実に一歩近づくかもしれない。少なくとも、どちらの方向に進むべきか、何らかの示唆をしてくれるかもしれない。

9月14日に書いた記事『スターバックス オデッセイは次世代のSocialFiのモデルケースになる』でも取り上げたスタバのNFT戦略。これが今後のweb3の進む未来を示唆してくれそう、という記事です。

この記事で注目するのは「スマートデザイン」。そしてその徹底っぷりです。


■スマートデザインとは?

今回ご紹介する記事では、

スターバックスの現行のポイントプログラムは、世界でもおそらく最も成功したロイヤルティプログラムだろう。世界中に参加者数は約6000万人。アメリカだけでも、3000万人いる。このプログラムは、リピーターの来店、アップセリング、パーソナル化を通じて、スターバックスの全収益の50%近くを支えている。

そもそもスターバックスが既存の(非NFTの)ポイントプログラムによって全収益の50%近くを上げていることを指摘しています。そして店舗で売り上げをあげる「出口」が既にあるため、NFT自体に収益を求める必要はありません。

従ってスタバにとって最善のNFT導入方法は「スマートデザイン」であるとしています。

この記事中で言うスマートデザインとはつまり、ブロックチェーンやNFTであることを意識させずにweb3ソリューションを導入すること。

技術黎明期は技術そのものを前面に出すことでマーケティングする手法は王道です。超古来から「LSI搭載」や「ファジー制御AI搭載」、車でも「インジェクション」「AT」など先進技術名で売る事例は枚挙にいとまがありません。

しかし今多くの製品でLSIやICなど集積回路は使われていますし、自動車はすべてインジェクション車です。当たり前になって差別化要素ではなくなったから技術名でPRしなくなっただけ、ではありますが、翻ってweb3、NFT界隈を見てみると、フルオンチェーンを売りにしたり、NFTである必然性がないものをNFTであると謳うことでセールスするマーケティング手法が非常に多い状況です。

今はまだweb3やNFTというキーワードが耳目を引きPR効果を発揮する時期ですし、NFTの購入者がクリプトネイティブなイノベーター層に偏っている現状、純度の高いweb3やNFTを少数のクリプトネイティブな人に売るのが主な市場になっていることを考えると非常に合理的なマーケティング手法ではあります。

しかしスタバは初めからNFTやブロックチェーンを表に出さないスマートデザインというアプローチを採ります。目的は、大成功して屋台骨になっている既存のポイントプログラムに悪影響を及ぼさないこと、これに尽きます。


■NFTのスマートデザイン的導入を周到に計画

スマートデザイン=ブロックチェーンやNFTを意識させない、既存のポイントプログラムに悪影響を及ぼさないための導入ステップが周到に計画されています。

まずUXなどのレイヤーよりもっと根幹の部分として

オデッセイを任意で選べるものにすることで、既存のプログラムを補完しつつ、稼ぎ頭となっているプログラムへのリスクを最小限にすることができる。さらに、将来的にウェブ3テクノロジーにまつわる状況が変化した場合には、柔軟な対応も可能だ。

そもそもの「スターバックスオデッセイ」自体を切り離し可能なオプションとしました。そのうえで、幅広い顧客層を持ちマスアダプションしているとはいえ、NFTを扱う部分に関しては初期のターゲットをZ世代に定めました。

次に、オデッセイは、主要な顧客層にピッタリである。スターバックスの最大の顧客層は25〜40歳のミレニアル世代。彼らが同社収益の50%を占め、18〜24歳の若者がそれに続く。スターバックスのブランドが成熟し、労働争議やサプライチェーンコストの高騰、人手不足などの課題に直面する中、現在の顧客ベースを維持、成長させることは、ますます大切となる。

NFTはいまだに非常に新しいテクノロジーであるが、このターゲットユーザーベースにとって魅力のあるものだ。Z世代はNFTに関して、投資経験も関心も1番高い。NFTへの投資経験や関心が次に高いのはミレニアルで、繰り返しになるが、彼らがスターバックスの主要顧客層なのだ。

最大の顧客層であるミレニアム世代に対して直接NFTをぶつけるのではなく、NFTともともと相性が良く、かつ2番目の顧客ボリュームであるZ世代を初期ターゲットとすることでメインビジネスへの影響リスクを下げつつNFTプロジェクトの成功確率を高めようとしています

3つ目に、スターバックスはNFT・ブロックチェーンに慣れた人たちと、まったく初めての人たちとのギャップを埋めるために、最上級のユーザーインターフェイス・ユーザーエクスペリエンス(UI/UX)を使うことが見込まれる。

ターゲットをNFTに親和性の高い(拒否反応を示さない)Z世代としつつ、さらにUI/UXでもNFT臭を徹底的に消す作戦を採るようです。

皮肉なことに、そのためには、少なくとも中短期的に、ウェブ3独自の特徴の多くを隠すことになるかもしれない。スターバックスのエグゼクティブバイスプレジデント兼最高マーケティング責任者ブレイディ・ブリュワー(Brady Brewer)氏は、次のように述べた。

「ブロックチェーンとウェブ3のテクノロジーを基盤にすることになったが、正直言って顧客は、ブロックチェーンテクノロジーとやり取りしていると気づかないかもしれない」

スマートデザインを徹底した結果、「スターバックスオデッセイ」はクリプトネイティブな少数のユーザーをターゲットにしたニッチな企画ではなく、より幅広くマスアダプションさせられるプロジェクトに昇華しそうです。

純度の高いNFTプロジェクトを喜ぶクリプトネイティブ層には受けが悪いかもしれませんが、より幅広く受け入れられ、より商業効果が高いやり方を目指すのがこのスマートデザインでしょう。


■web3やNFTのスマートデザイン化は間違いなく広がる

今は、web3やNFTを前面に押し出した方がプロモーションしやすい、投資マネーを集めやすい、ウォレットをわかっている人だけを相手にすれば運営も楽、わからない人向けのUI/UXのブラッシュアップコストがかからない、というのが現状です。

しかし、NFTやブロックチェーンの必然性がないのにマーケティング手法としてNFTを謳うブームはいつか必ず終わります。クリプトネイティブに刺さるプロジェクトは裏返して非クリプトネイティブにはわかりづらく届きません。

そしてきっと、ブロックチェーンは今後もっと当たり前に使われる技術になります。インターネットテクノロジー、ITというのが死語になったように。

そんな未来を見越して今からスマートデザイン志向でいるのは勇気もお金も必要です。マスアダプションを目指す本流は間違いなくこちらの方。

でも純度の高いweb3やNFTをイノベーション層とラボ的に楽しむのも今ならでは。

やり方は違いますが、小手先ではなく深いweb3への理解が必要だというのはどちらも共通です。深く理解したうえで
1.web3感を前面に押し出すか(現状の多くのweb3/NFTプロジェクト)
2.上手にweb3感を演出するか(
NEXONのメイプルストーリーNなど)
3.web3感を一切感じさせないようにするか(今回のスターバックスオデッセイ)
がだんだん分化し始めている、スマートデザインの初期が今なのだろうと思います。

マスアダプションの本流は上記の3でしょう。web3やNFTのスマートデザイン的導入で知らないうちにブロックチェーンに触れていた、ということが今後徐々に増えていき、いつの間にかみんなweb3。そんな時代がやってきそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?