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『2023年度税制改正大綱で暗号資産の期末評価課税見直し。GameFi事業者から見た未解決ポイント』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.12.21

■暗号資産の期末評価税制見直し、来年度税制大綱に-事業環境を整備

暗号資産を巡る法人税の一部緩和が、与党が16日にもまとめる2023年度税制改正大綱に盛り込まれることが分かった。自民党デジタル社会推進本部のWeb3(ウェブ3)プロジェクトチーム(PT)が同日開いた会見で明らかにした。

  大綱に盛り込まれることになったのは、企業が発行し継続保有している暗号資産を法人税の期末時価評価の対象外とする要望。同PTが3月に発行したホワイトペーパーで同税制の改正を提言し、金融庁や経済産業省が要望として提出していた。

先週木曜日、12月15日に報じられていた内容です。
来年度の税制改正大綱に暗号資産の期末評価課税をなくす方針が盛り込まれるというのが主な内容。

暗号資産関連の税制に関して、「与党税制改正大綱」に記載されたのは「自社発行の暗号資産保有に対する期末評価に対する対応」、「自社発行トークンの取得価格の評価方法」および「暗号資産レンディング事業者などの損益評価方法」などとなっている。

そしてこちらが一昨日報じられた、中身の解説付きのニュース記事です。

2023年度税制改正大綱の原文PDFはこちら。
bitFlyerの加納裕三さんもTwitterで詳しく解説していらっしゃいます。

日本では独自トークンの発行ができないのでweb3起業家が海外に流出してしまうという危機感を

渡辺CEOはnoteの中で、「現行制度の中では、特に法人が保有する仮想通貨の期末課税が問題である」と指摘した。

Astarの渡辺創太さんはじめ多くの方が声を上げた結果、今回の期末課税をなくすことが中心の改正が実現しました。

今回の改正は「初めの第一歩」として評価する向きもあれば、暗号資産投資家が求めていた株式同等の20%の税率による申告分離課税とする改正が含まれなかったことを残念がる意見も多く出ました。

しかしGameFiなどトークンを使ったweb3サービスを提供しようとする私のような立場では別の問題があります。

そして「日本ではweb3企業ができないので海外に流出してしまう」という問題は今回の税制改正大綱の内容では全く達成できないというのが結論です。


■GameFi事業者から見た未解決の課題

1.トークンを他者に移転できないようする技術措置を求めていること
2.監査法人がトークンを発行・保有した法人の監査を拒否する問題が解決されていないこと

の2点が、今回の税制改正大綱の内容ではGameFi事業者にとっての大きな課題です。期末評価課税が撤廃されたとしても、この2点が残っている限りトークン発行・保有する法人を海外に設立するか、自ら海外に出て行って事業展開するしかありません。

1.トークンを他者に移転できないようする技術措置を求めていること

2023年度税制改正大綱のうち以下の部分です。

① 法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益 を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産を除外する。
イ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているもの であること。
ロ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行 われているものであること。
(イ)他の者に移転することができないようにする技術的措置がとられてい ること。
(ロ)一定の要件を満たす信託の信託財産としていること。

長期保有が目的で、かつそれを証明するための譲渡制限がされている場合に限りトークンを発行しても期末評価課税しないよ、という制限が加わっています。その結果、

・ゲームで運営がユーザーにトークンを配布するような使い方ができない
・トークンで資金調達することができない

ということが発生します。

トークンに関する資金調達はトークン自体の移転を伴わない「もらえる権利」での調達は可能かもしれません。もともとロックアップ期間をすぎると一気に売られる問題を解決しなければならなかったこともあり、売却までの期間が長期化しているのが今のトレンドですのでこちらは大きな問題ではないかもしれません。

しかしPlay to Earnのようなユーザーがトークンをもらえることをインセンティブにする設計のものについては発行したトークンをユーザーに配布・移転させることが大前提なわけで、発行した直後に全トークンをロックアップしなければならないとすればGameFiに独自トークンは使えません。これは致命的です。


2.監査法人がトークンを発行・保有した法人の監査を拒否する問題が解決されていないこと

税制改正で解決することではないかもしれませんが会計にまつわる大きな問題です。

トークンを発行・保有すると監査法人が監査を拒否します。これは日本に限らず世界中どこでも同じです。そのため、上場企業、上場企業に連結される子会社、上場を目指す会社はトークンを発行・保有することができません。

経済産業省2022年12月16日発行「Web3.0事業環境整備の考え方」P.50より引用

税制改正大綱で対応することではありませんが、経済産業省もこの点を指摘しています。

監査法人による会計監査 問題
監査法人から受嘱を忌避される事例が複数存在。今後、金融庁や民間業界団体と連携・ 協同し、公認会計士・監査法人よる監査を受けられるような環境整備を進めていく予定。

経済産業省のこの資料は秀逸です。
P.42から以降、期末評価課税の問題以外にも整理すべき課題がたくさんあること、それらを前向きに取り組んでいく姿勢がかなりわかりやすくまとめられています。

トークンを発行・保有すると監査が受けられない問題が解決しない限り、いくら期末評価課税が撤廃されたとしても上場企業・連結対象企業・上場を目指す企業はトークンを発行・保有できません。

自社でトークンを発行できないならば、海外に「上場させる気がない・資本的にも支配関係的にも無関係な別法人」を設立するか、株式上場を諦めてその別法人の立ち位置で自ら海外に出ていくしかありません。これがweb3企業が海外流出する理由です。

裏技的な手法を使わずに日本国内の上場企業が正面からトークンを発行・保有でき、トークンを活用したサービスを提供できるようになるためには、会計監査を受けられるようにするルール作りが必要です。

何をクリアしたら監査できるようになるのかは私はわかりません。web3会計に詳しい水地先生などにぜひお話を伺ってみたいところです。


■いま日本がweb3ネイティブな法整備をすれば世界一になれる

2023年度税制改正大綱で期末評価課税が撤廃されたことは大きな前進です。

さらに追加で今回挙げたトークン移転の自由化と監査法人の監査拒否問題が解決され、さらに20%税率での申告分離課税や暗号資産同士の交換に関する税制の整備が整えば、間違いなく日本は世界一クリプトに優しい国という位置づけになります。

そうなれば世界中のweb3投資マネーと優秀な人材、優秀な法人が日本にこぞって集まってくるはずです。

web3を日本の成長の柱にする、を2023年税制改正に引き続いて推し進めてほしいと願っていますし、日本から世界にGameFiプロダクトをどんどん出していける環境が整うことを願っています。

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