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『サフィルヴァ北海道の「デジタルオーナー権」NFTではやりづらい設計がサスガ。』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.8.23

■サフィルヴァ北海道、チームの「デジタルオーナー権」を販売

株式会社サフィルヴァは、サフィルヴァ北海道が2022年8月20日より、一口月額100円からのチームの「デジタルオーナー権」の一般発売を開始すると発表した。

・オーナー権の仕組み
1.スポーツチームの運営に擬似的に参加が出来るデジタル上の権利証明書。
2.一口100円でチームごとに任意の口数を発行することが出来る。
3.総発行数に対する保有率によってオーナー権のランクが異なる。
4.初期から応援しているオーナーの権利はチームが成長したあとも保持される。

札幌のバレーボールチーム、サフィルヴァが「デジタルオーナー権」を販売すると発表しました。

が、仕組み自体はブロックチェーンもNFTも使いません

いまの時代に「デジタルオーナー権」を検討したわけですから、おそらくNFT化は俎上に載ったと思います。

アプリ内トークン「エモコイン」とは?
エモコインはチームを応援することで発行される感謝の気持ちを表すコインです。スポつくのアプリ内でのみ利用できるアプリ内トークンであり、仮想通貨ではござません。また貨幣との換金も出来ません。

という説明もあるくらいweb3のことをご存じです。

サフィルヴァさんがNFT化をしなかった理由を考察してみたら、むしろNFTでは実現しづらいユニークな仕組みであることがわかりました。

シンプルで最大の理由は「NFTは買える人が少ないから」だと思いますが、NFT化しないのならNFTではできないことをやろう、と考えたと感じられてとても興味深かったのでご紹介します。


■総拠出額に占める割合でランクが決まる仕組みが面白い

「デジタルオーナー権」プレスリリースページより

上記が今回設定されているデジタルオーナー権のランク・種類と特典の対応表です。

個人向けは「ホワイト、サファイヤ、ルビー」法人向けは「ゴールド、ダイヤモンド、ブラック」となっています。
「無料ユーザー」はチームの情報がみたいライトなユーザーであり、スポつく上にログイン可能は可能ですがオーナーとしての権利は保持しません。

オーナー権の「比率」によってランクが変わると書かれていますので、デジタルオーナー権を持っている全員が月額として支払った総額を100として、自分が支払った額がその時々で何%を占めているかでランクが変わる仕組みです。

ただ自由競争にはしておらず、募集総額の上限をあらかじめ決めています。

スポつく 販売ページより

今回の一次募集の状況を見てみると、すでに9687口が売れていて、あと313口=月額31300円分を残すのみになっています。

スポつく 販売ページより

そして2次募集では各ランクの月額単価が5倍になります。
なので早く申し込んだ方が同じ特典が安く使えてお得、という設計になっています。

なぜ初期ほどお得なんですか?
オーナー権のランクは保有率によって決まるため、総発行量が少ないうち(チームが無名で注目度が低いうち)に購入することでより安い金額で大きな保有率を購入することが出来ます。

早くから目を付けて応援し始めることにもインセンティブを持たせています。加入年数をもっとわかりやすく表現してもいいかも。

オーナー権は追加で発行されますか?
はい。チームが昇格した時や、大型補強、新規事業の実施などチームが追加で資金が必要な際にオーナー権を追加発行することで資金調達や関係人口の増加を目指します。

オーナー権をあとから買い増ししようとしても、次の追加発行の時まで待たなければならないようです。そして後からだと初期より高い。なので安いうちに買おう、という動機付けがされています。


■この仕組みはNFTだとやりづらい

よく「NFTである必要がないのにNFTでやる」ことが批判されますが、この仕組みは逆で、むしろ通常のNFTだとやりづらいです。

ランクごとの募集人数を決めずに完売を目指せる

どのランクが何人になるかは売り切ってみないと分からない仕組みで、ファン・拠出者の買い方によって人数は変わります。1万口を全員が月額110円のホワイトで拠出すると拠出者は1万人、逆に法人1社が全部買い占めると1社独占:-p

ランクごとの販売数を先に決めると、高額な高ランクが売れ残ったり安価な低ランクが買えない人が登場する恐れもあります。「何口買うか」でランクを決められるのは売る側にとっても買う側にとってもメリットがあります。

「何口買うか」システムがFTっぽくてやりづらい

NFTでやるなら上記のように各ランクごとに販売枚数を設定するか、FT(ファンジブルトークン)っぽく最低ランクのNFTを何枚持っているかでアプリ側がランクを判定する仕組みになるでしょう。

これはこれで面白いと思いますが、NFTがいつでも売買可能だという前提ならば、売り買いしている間にランクを跨いでしまって特典が受けられなくなることもあるかもしれません。逆に試合やイベントの直前だと特典を受けたくて売買が活性化するかもしれません。

二次流通のロイヤリティが設定されていれば収益的にはそれもアリでしょう。でも月額課金での収益額を見通せることの方が、チームの安定的な運営には重要だと考えたのだと思います。

「寝た子を起こさない」ことは月額課金では重要

売買可能なNFTは価格変動します。価格変動があると売って利益が出るかもと考えて思い出してしまいます。

こういう月額課金のものは「寝た子を起こさない」ことが大事。一度月額の金額を確定してしまったら払い続けてもらうことが商売上は効果的だと思います。

そもそも月額課金の仕組みとしてNFTは使いづらい

どうしてもNFTで月額課金をやるなら、1か月で自動的にBurnされる設定をスマコンに入れておけば期限付きにはできます。ただし期限が切れたら追加購入してもらう必要があり、継続率が大幅に下がるはずです。


■NFTでこれらが実現できるニーズがありそう

・総発行口数が設定できる
・口数でランクが決まる
・月額課金ができる

がNFTかNFT+FTで実現できたら需要がありそうです。

毎月決まった日にウォレットから定額の暗号資産が引き落とされる仕組みができれば月額課金になります。

ユーザーから見ると「寝た子を起こさない」のは不誠実だという時代の流れもありますし、二次流通市場でいつでも自由に売買でき、必要に応じて必要な人が口数を増やせる方向に向かうのではないかと思います。

※今回のサフィルヴァ北海道のデジタルオーナー権の場合は会員ランクを購入時点でわかりやすく確定させることが目的で「寝た子を起こさない」という意図は感じられませんが、購入時に決まった会員ランクをあとからアップさせる仕組みがもっと柔軟な方がいいようには思います。


■もしNFTだったらどんなメリットがある?

・二次流通ロイヤリティが設定できる
・ある程度自律的に他のチームと互換性を持たせられる
・第三者がデジタルオーナー権を持っている人に独自サービスを提供できる
・非公認ファンコミュニティでもデジタルオーナー権を使ったサービスを勝手に作れる
など、外部に開けた相互運用性が自律分散的に作り出せるのがNFTならではのメリットだと思います。

パブリックチェーンで暗号資産建て購入のNFTだと地域スポーツ振興としては要求するリテラシーレベルが高すぎて買える人が少ないこと、法人スポンサーを募る際に暗号資産建ては事実上不可能に近いことなど、基本的なところでNFTは採用しづらいのが現実です。

でもこのあたりのUXの悪さ、難しさは時代が解消することを期待しています。

今回のように「NFTではやれないことをやる」というのが非常に興味深いと感じました。「NFTでしかできないことをやる」のと対になる考え方でよく考えられているなぁと。

しかしながら、これが他のチームや他のスポーツにも波及するには「業界団体で仕様を共通化してひとつのプラットフォームに集約して」と中央集権的になりがちで、利権が生まれやすく、利害衝突で全員が乗れなかったり、第三者が自由には使えないものになりがちです。

NFTやweb3のいいところはオープンなところ
決済やUXの問題が解消されていけば、開かれた外部連携のためにNFT化・web3化が進んでいくんじゃないかと思っています。

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