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『既存免許事業者によるセキュリティトークンでの投資商品化の対極、柔らかサイドの適切な規制はどうあるべきか?』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.5.5

■三菱信託銀行が札幌の宿泊施設のセキュリティトークン発行、ユーティリティトークンも付与

今回の資産裏付型STは、札幌市にある宿泊施設「ONSEN RYOKAN 由縁 札幌」の不動産信託受益権を原資産として受益証券発行信託を組成、さらに受益権を小口化した「セキュリティトークン(ST)」として販売された。募集はすでに終了し、完売している。

またSTに加えて、同宿泊施設で販売されているお土産の交換権(税込1930円相当)がユーティリティトークン(UT)として付与されるという。UTの付与については、インフラ基盤「Progmat UT」、UT発行体企業向けのWebアプリ「Token Manager」、UT保有者向けのモバイルアプリ「Token Wallet」を活用する。

Web3のデジタルアセットとしての特長に着目すれば、正面からセキュリティトークン=証券であるとした方が多くの人にとって分かりやすいかもしれません。

ただしWeb3の別の特長である非中央集権化、分散化は叶っていません。あくまでも国家機関に証券を扱うことを許された機関のみが、証券に関する国家規制に準拠するかたちで運用されるのが今回も含めたセキュリティトークンになります。


STが推し活を双益・双務型に変える

ST化して投資対象にできるというと投資家のみがターゲットのようにも見えますが、今回の「ONSEN RYOKAN 由縁 札幌」の資産裏付け型STは「ファンマーケティング目的」と位置付けられています。

今回の取り組みによって、「Progmat」を活用した資産裏付型STの発行事例は8例目、ファンマーケティングを目的としたUTの発行事例は3例目となり、三菱UFJ信託銀行が受託者を務める資産裏付型STを発行目的とした受益証券発行信託の運用資産残高(AUM)は約430億円となるという。

ファンにSTを買ってもらい資金援助してもらうのはクラウドファンディング的ですし、ファンが推し活で投資的リターンを得られるようにもなります。投資家の裾野を広げるとも言えますし、一方的で搾取的だった推し活を相益・双務型に変えるとも言えます。


リスクが高い証券商品を「自由」に作れる現状

今回は裏付け資産のあるもののみを扱っていますが、アイドルやスポーツチームなど裏付け資産がない対象をST化する場合はプロジェクトが失敗した際の回収額が大幅に減り損失が大きくなります。そのようなタイプの推し活ST商品をProgmatでは扱わないかもしれず、だとしたら別の誰かが証券化するでしょう。

その際は一層リスクやダメージが大きくなるため、本来は裏付け資産があり免許事業者が発行するSTと同じかそれ以上の規制が入りそうなものです。しかし現実には無免許事業者が「自由」にトークン化しIEOまでしているのが実情です。

売る側も買う側も理解者ならともかく、騙された感が出てしまうとハードな規制が入りかねません。FTX破綻のような社会問題レベルでなくても、IEO割れやNFTの価格暴落などを繰り返していると「自由」を国家規制によって失いWeb3の理念のひとつを失う可能性もあります。


従来型免許事業者によるST化

発行基盤には、同信託銀行が開発したデジタルアセット全般の発行・管理基盤「Progmat(プログマ)」を活用している。同基盤は今年9月以降に独立会社「株式会社Progmat(仮)」に移管される予定。

今回のST化事業は三菱UFJ信託銀行が開発した「Progmat」を基盤としており、この基盤は

三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友ファイナンシャルグループ、SBI PTSホールディングス、JPX総研、NTTデータの7社は12月21日、Progmatの開発・提供と、「デジタルアセット共創コンソーシアム」(DCC、会員企業数163社)の運営を担う合弁会社の設立に向けた検討を開始することに合意したと発表した。

という座組みで運用されています。

ブロックチェーン技術を使いトークン各種を自由に作れることはWeb3の革命的な要素のひとつでしたが、技術的にトークンが作れることと、信頼に足るプロジェクト運営ができることとは別の話です。詐欺プロジェクトも多数ありましたし、詐欺の意図はなくても結果的にうまく行かず投資家や消費者に損失を与えてしまうプロジェクトも多数ありました。

今回のProgmatの「デジタルアセット共創コンソーシアム」でも利回りが出ないプロジェクトも発生する可能性はありますが、ST化をするにあたっての審査手続きなどを従来型免許事業者の責任において行われているだろうということは無名の事業者の発行する裏付け資産のないトークンを買うより安心感を感じる人が多いのも事実だろうと思います。

そのぶん利回りが低かったり、取引手数料収入が関係各社の収益源になる構造上クローズドで民主化されていなかったりという従来型の問題点をそのまま引きずることにもなります。

そういう意味ではブロックチェーンを使っていてもWeb3の純度は低いのですが、トークンの使途を増やし体験者を増やすことには貢献するはずです。


どの程度の規制が適切か?

広く暗号資産(仮想通貨)を取り巻く状況は2022年、テラ(Terra)の崩壊に始まり、大手レンディング企業の破綻、さらには一時、業界の救世主と期待された大手取引所FTXが破綻し、暗号資産価格も低迷するなど、いわゆる「暗号資産の冬」が厳しさを増している。
(中略)
日本のデジタル資産市場は、その厳しい規制ゆえにグローバルな競争からの遅れを指摘する声もあった。しかし今、厳格な規制が世界から学ぶべきスタンダードとして注目を集めている。

米国SECがすべてのトークンを証券扱いしようとするのは、このProgmatのような座組みのみを許可するような発想が根底にあるのだろうと思いますし、テラ事件、FTX破綻を経て一層頑なになったとも感じます。

トークンを扱う事業者がすべて銀行や証券会社のような免許事業者でなければならないとすればWeb3に見る夢の8割がたは露と消えますし、国家や大企業による中央集権によって起きる課題は解決されなくなります。

「すべて免許」はやりすぎだと感じますが、「何でもあり」も確かに問題が多数起きたのも事実です。

「既存免許事業者が行う、裏付け資産のあるものを対象にセキュリティトークンによる投資商品化」は最も堅いやり方ですが、反対側の柔らかサイドがどの程度の規制で行われるべきかが固まってくればWeb3に取り組みやすくなるのは間違いありません。

ゲームの安全なRMT化や推し活の双益・双務化などがより進みやすくなるよう、しかし乱暴な投機マネーのみが飛び交ったり詐欺が横行したりしないよう、いいバランス&あまりハードでないかたちでWeb3事業の環境整備が進むことを願っています。

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