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『フェラーリが米国で仮想通貨決済を開始。どうやって実現しているのか?』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.10.16


■フェラーリが米国で仮想通貨決済を開始

高級スポーツカーメーカーのフェラーリは10月14日、米国で仮想通貨による車両の支払いを開始することを発表した。欧州での導入も計画している。

最初にこの記事のタイトルを見た時、
「あのフェラーリが!?」「仮想通貨規制が超厳しいアメリカで!?」
と驚いた半面、
「車両本体ではなくパーツやメンテナンス、ウェアやグッズを仮想通貨払いできるようになった、くらいのことをタイトルで大きく見せているのかな?」
とも予想したのですが、まさかのフルスペック、
「フェラーリが・アメリカで・車両本体の支払いに・仮想通貨決済を開始」
でした。

仮想通貨そのものの金銭的価値を怪しく見る人も、フェラーリという高額な現物資産に変換することができるとなると、仮想通貨の社会的な信用が高まりそうです。

マネーロンダリングが心配になりますし、仮想通貨に詳しい人なら、フェラーリ社が代金として受け取った仮想通貨をすぐに売ってしまうとしたら売り圧が高まるじゃないか、という心配をするかもしれません。

このあたりも今回のニュースで一部触れられていましたのでご紹介します。


仮想通貨決済のターゲットは富裕層

仮想通貨に精通した若い投資家を含む多くの顧客がデジタル通貨を保有しており、市場の需要が高まっているという。

ガッリエーラ氏は、仮想通貨による車両販売の具体的な数値は明らかにしなかったが、2025年まで受注が埋まっていると述べた。フェラーリは、仮想通貨の拡大する市場をテストすることで、従来の顧客層を超えた潜在的な購入者にリーチしたいと考えている。

仮想通貨で支払いたいと考える人は富裕層が多いとフェラーリ社は考えています。その富裕層に対しても、これまでは「仮想通貨をあらかじめ法定通貨に換金してから支払ってください」と要求していたのがこれまででした。

仮想通貨は、仮想通貨同士の交換や他者への送金がとても簡単だという特徴がある反面、今のところ法定通貨との交換は難しめです。取引所を経由する必要がありますし、手数料やスプレッドで目減り額も大きくなりがちです。そして取引所で換金した法定通貨も、取引所から銀行口座に送金しないと決済に使えないという不便さもあります。

そのため、仮想通貨を持っている人は、仮想通貨のままで送金したいというニーズが強くなります。

フェラーリ社が仮想通貨での決済を取り入れたのも、ターゲット顧客である富裕層の、仮想通貨ホルダーとしての感覚に寄り添ったからだろうと思います。


フェラーリ社はなぜ仮想通貨決済が導入できたのか?

法人が商品代金として仮想通貨を受け取ることが難しい理由はいくつかあります。そのいくつかの理由・課題をフェラーリ社は大手仮想通貨決済プロバイダーであるビットペイと提携することで解消しています。

1.仮想通貨の値動きの激しさ、暴落の心配を回避

企業が仮想通貨決済を導入しづらい最たるものが、仮想通貨の値動きの激しさです。
フェラーリの代金として3000万円分の仮想通貨を支払われても、翌日には価値が半分になってしまっては困ります。

米国での最初の段階では、フェラーリは大手仮想通貨決済プロバイダーであるビットペイと提携する。この提携により、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、USDコイン(USDC)での取引が可能になる。

フェラーリ社が車両の支払いに使うことを認めている仮想通貨の種類は、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、USDコイン(USDC)の3種類に限っています。

数多ある草コインでの支払いは認めていません。また、

ガッリエーラ氏は、ビットペイがフェラーリのディーラーに代わって仮想通貨を法定通貨に迅速に換算するため、追加手数料やサーチャージは発生しないと述べた。これにより、ディーラーは仮想通貨の価格変動の影響を受けなくなる。

と、顧客はビットペイに仮想通貨で支払う→ビットペイは相当額の法定通貨をフェラーリ社に支払う、という仲介業者をはさむことで仮想通貨決済を実現させています。

この方法で、仮想通貨の価格変動の影響を(フェラーリ社から見れば)なくしています。

2.面倒な会計処理、監査忌避問題を回避

他にも、フェラーリ社のような一般企業の多くは、仮想通貨を持つと会計処理が非常に面倒になる、という課題も解決されます。あくまでも法定通貨しか受け取らないというかたちが採れるので、この方法でなら仮想通貨払いが導入できるという企業も多いでしょう。

仲介するビットペイは、仮想通貨払いに対する手数料を取ることができます。わずか数パーセントでも、フェラーリの車両代金は高額ですから、結構な手数料収入を得ることができます。

ただし、ビットペイには仮想通貨が貯まり法定通貨が出ていくという構造になるため、ビットペイが得た仮想通貨は、ビットペイの顧客に対して法定通貨建てで売られることになります。つまりビットペイにとっては仮想通貨を持ちたい・買いたいという人が増えてくれることが必要です。

ビットコインの半減期を目前にしている今、仮想通貨全体が値上がりする期待から買いたいニーズが増えると予想しているのだろうと思います。

3.マネーロンダリングを防止

また、ビットペイは仮想通貨の正当性も確認し、違法行為、マネーロンダリング、脱税などの資金源とならないことを保証する。

仮想通貨は、ブロックチェーン上の取引履歴が公開され検証可能なので透明性が高いとされています。しかしながら、ハッキングや詐欺なども横行しているのが実情です。

今回のフェラーリ社の取り組みでは、ビットペイが仮想通貨の正当性をブロックチェーンの履歴を確認することで担保する仕組みを採っています。

不正なお金かどうかは、むしろ法定通貨のほうが確認しづらかったので、フェラーリという高額なクルマを売買するにあたってフェラーリ社としても安心感が高まるかもしれません。

(不正な方法で得た法定通貨を元手に取引所で仮想通貨を買うことでロンダリングできてしまうという穴があり確実ではありませんが。)

これら3点の「一般企業が仮想通貨決済を導入するにあたっての課題」をビットペイが引き受けることで、フェラーリ社は仮想通貨決済を導入することを実現しています。


一般企業に広まるかは仮想通貨ニーズ次第

この方法であれば、仮想通貨での支払いを受け付けられる一般企業は多いはずです。気にしなければならないのは手数料の割合や決済方法の設備投資額、そして法定通貨の入金サイクルくらいで、PayPayなど他のキャッシュレス決済を導入するのと検討項目は変わりません。

しかし、今回のビットペイのような仲介企業が生まれ、そこができるだけ安価な手数料設定で広く市場にサービス提供できるかどうかは、仮想通貨を持ちたいと思う人がどれほど増えるかに依存する面があります。

ビットペイには仮想通貨が貯まり法定通貨が出ていくという構造になる

これが大きな課題で、仲介企業の手元に貯まってしまった多額の仮想通貨が市場に放出されれば大きな売り圧となり値崩れを起こしてしまいます。

今はビットコインを中心に買い集めている大口のクジラがいるので大丈夫なのかもしれませんが、より幅広い人たちまで仮想通貨を所有するようになり大きな循環が生まれないと、ビットコインが抱えるリスクが高くなりすぎます。

今回のフェラーリ社の取り組みはまだ実験段階のようですが、仮想通貨決済が一般化して、他社にも広がるかどうかは、ビットコイン半減期のさらに先でも仮想通貨ニーズが維持できるかどうかにかかっています。

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