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朝、アイスコーヒーを淹れたら。


鬱々とした朝だ。



この春新卒入社した会社は、
一般的に言えば働きやすいのだと思う。


つい先日までふにゃふにゃの学生だった新入社員のことを大切にしてくれているのは感じるし、

加減が分からない私たちが休息を取りやすいような工夫がそこらに散りばめられているのも感じる。


だから、

新たに見えた社会の一面を、まだ受け入れられてないだけなのだ。


それは分かっているのだけど、

とはいえ、

順調に、心の中央に開いた穴が大きく拡がっていくのを
私は毎日感じている。


思い通りにならないと怒鳴る、
明らかに狼狽する、
優しくリードしてくれる、
とうに感情をどこかへ埋めてきたような声で話す、

どれも、数年前はかっこいいと憧れていた大人の姿。




自分次第で人生なんてどうにでも出来ると夢見る私に、
その人生が踊るはずだった社会はとてもつまらないものだと、
現実を突きつけていく新しい生活。


これは確かに諦めることを癖づけておかないと、簡単にメンタルやられるなあ

と、
近い未来の自分を思い描きながら、冷静を装って絶望している。



優しさを忘れないと生きていけないのだろうか。

他人の安寧を蔑ろにしないと気が済まなくなるのだろうか。

なんてつまらない。




目には見えないが、溜まりに溜まっているのが容易に感じられるフラストレーションを殴り散らそうと、
ゲーム機にボクシングのソフトをセットして電源ボタンを長押しした。

それはもう一心不乱に空気を殴り殺した。



アドレナリンでハイになり何もかもどうでも良くなったところで、

私はコーヒー豆を挽き始める。



これは母が誕生日にコーヒーミルを贈ってくれてから始めたことで、
それから私はコーヒーを見ると、それを特別な飲み物と思わなければならない気がするようになった。


ミルクパンに水道水を注いでガスコンロの火にあてる。


急に頭上に「虚無」の文字が浮かんだ。

慌てて、崎山蒼志の『舟を漕ぐ』を再生した。



いつから、私の舟から幸福は逃げたのだろう。

10代の終わりから、それは恐怖や怒りから逃げるための道具になり、

やがて、

うーん、今はあまり書きたくない。


今はともかく、姿を思い浮かべることも出来ない、誰かの想像上にいる「あなた」の漂流を覗き見るので十分だ。


・・・・・

逃げたい気持ちを、時計の針が部屋の隅へ追いやっていく。

気づけば、お気に入りのバンドがグッズで出したタンブラーに、
アイスコーヒーを注ぎ終えていた。


今日も始まる。


2023 / 07 / 19     07:51

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