見出し画像

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(FujisawaSST)で暮らしに必要なモビリティを考える

 少し前ですが2022年5月24日にパナソニックが携わるスマートタウンのFujisawa サスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)で「みんモビ(みんなのモビリティ)」というタウン向けシェアサイクルサービスを始めました。この街で組織として3年くらいモビリティを調査や実証しながら検討してきましたが、気が付けば素敵な方々とのプロジェクトとなり、学びも大変多かったので、何故シェアサイクルからモビリティサービスを始めたのかを少しNOTEにまとめておけたらと思います(長文となり恐縮です)。

100年続く街を目指す

 まず少しだけ前置きですが、パナソニックではスマートシティ活動として”100年続く街”を目指し、元々藤沢市にあった工場跡地の約19haに2014年「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」を街びらきしました。グリーンフィールド型(ゼロから街づくりを立ち上げる手法)で民間企業約18社や藤沢市・慶応義塾大学といった行政・大学とも連携して立ち上げた住宅中心郊外型のスマートタウンです。今では2,000名を超える方が居住されておられます。

 今でこそ色々なところで”スマートタウン”や”街全体で脱炭素”という話が出てきていますが、実はFujisawa SSTでは立上げ当初から環境を意識して「生きるエネルギーが生まれる街。」というコンセプトで、ソーラーパネルやエコキュートなど導入し、CO2排出量を1990年比で年間70%削減の目標を立てています。またモビリティに関しても当時から「所有から利用へ」というコンセプトで、カーフリー街区というマイカーを所有しないエリアがあり、カーシェアを中心に環境配慮したモビリティサービスも実施してきました。この街で凄いなと思う点の一つに、今では欧米でも広がっていますが、街びらき当初から街が目指すゴールと守るべき憲章があり、約560世帯の住民自治(コミッティ)が主体となり100年続くために運営されています。民間企業や大学が関わることで、暮らしをより良くするための色々な新しい挑戦が街の中で行われており、最近ではロボットがお家にパンとか卵、ミールキットなんかを届けてくれる搬送ロボットの実証なんかもやってます。企業や自治体の方向けの視察サービスとかもありますのでもしご興味あればアクセスして見てください(Fujisawa SST見学ツアー、そこは有料w)。

 そんなFujisawa SSTで3年前くらいから街の暮らしにとって本当に必要とされる移動の在り方って何だろうと議論を始めまして、コロナ禍で生活様式が大きく変わる中、住人様とのヒアリングも繰り返しながらモビリティサービス検討をしてきました。

街の中心にあるコミッティセンター


住人様の暮らしと向き合う

 Fujisawa SSTにはコミッティという住民自治の仕組みがあるので、生活や暮らしについての議論がテーマごとに頻繁にされています。我々はさらに細かくどんな暮らしや移動の悩みや課題をお持ちなのか把握するため、昨今スマートシティの流れとしてオプトイン(事前に住人同意)したデータを街のための活用が始まっていますが、住人様から合意を頂いたうえで複数回のアンケートやヒアリング、ワークショップ、実証による移動データ収集(アプリ上で合意)などで暮らしの一部と向き合わせて頂きました。例えば移動の課題という観点では、藤沢駅前の渋滞が激しく、雨の日などバスの遅延が45分以上かかることがあるとか、大きな商業施設や塾などがある辻堂駅向けのバスの本数が少ない、シェアサイクルが借りたいときに借りれない、駐車場が少ないなど、さまざまな住人様の生の声を頂きました。商品・サービス開発をする中でユーザーリサーチやアンケートなどは良くあるものの、こういった実生活されている皆さんと暮らしに向き合いながら直接対話させて頂ける環境は非常にユニークであり、民間企業にとっても新たなサービスを検討する上で大変ありがたい環境だと言えます。

住人様向けEVシェアカー(非常時には電源コンセントとしても利用)

「街は生きている。」

 私がこの街づくりの活動を通して学んだことの一つに、あたり前の話ではありますが「街は生きている」ということです。単に家や設備が古くなるとかそいういう意味ではなく、例えば街ができたときは、まだお子さんが小さかったご家庭も10年経てば小学校高学年。ご家族が増えた方も居られると思います。子たちが大きくなれば移動手段が3人乗りママチャリからクルマでの移動になったり、子どもは自立してそれぞれの自転車やバスで移動したり、時間と共に家族の移動の仕方も変わります。このように街は成長し変化するということです。
 コロナ禍で面白い変化だったのは、今まで共働きで藤沢市から東京都心へ出られていたご家族が、在宅勤務中心となりご夫婦でご自宅や、Fujisawa SSTのスターバックスやシェアオフィスで仕事される方が大幅に増えました。子育て世帯を中心に都市とリゾートの両環境を併せ持つ湘南エリアへの人気が高まって、藤沢市は高い流入率にもなっています。また、密をさけるために都心では無く、海に遊びに行く観光客も増えて、藤沢周辺の狭い道路が今まで以上に渋滞が発生するようになりました。このように住んでいる人の暮らしが変われば、その街に求められる移動も変わります。そういう意味でも、街が生きている、ってことが良く分かります。街を設計した当時には想像もつかない状況へ、人の暮らしは変わって行くので、街も家や公園、お店は固定したインフラですが、変わって行く必要があるということです。つまり数年先で予想がつかないことが起こっている世の中では、5年や10年という都市計画の在り方は変えてく必要があります(当然中長期の都市計画も必要ですが、より短期的な変化も重要になってきたという意味です)。モビリティという観点では、街を作った時のモビリティサービスから、その街の暮らしの成長に合わせて変わって行く必要があります。スマートフォンのアプリケーションやテスラ(電気自動車)のような車載機能がアップデートされていくように、街もハードだけでなくソフトウェアのように変わっていく仕組みを取り込んでいかなければいけません。不動産を売って終わり、商品を出して終わり、という時代ではなく、今後は暮らしに合わせて便利を考え続ける必要があります。当然、建物は劣化し価値は下がっていくものではありますが、その街の上にある体験サービスや支えるコミュニティが、街の価値を維持もしくは上げていける可能性があります。街に個性が生まれ、そこに住んでいる人達が笑顔で活き活きと生活していたら、来訪者も、なにか楽しそうなところだな、と思ってまた訪れたいと思いますよね。このように「街が生きている」と捉えると真正面で向き合う現場の暮らしが一番大切になりますし、国内さまざまなスマートシティや街づくりの発想が変わるんじゃないかなと思っています。

「わが街意識」の重要性

 街の皆さんと一緒に街づくり活動する中で大切にしなければいけないポイントの一つに「わが街意識」があると思っています。住んでいる皆さんが主体者で、やはりまずは自分の街のことを好きになって頂くことがとても大切だと思います。昨今、マンションなどでも隣に住んでいる人が誰かも分からなかったり、他の人と疎遠になる、ということはよくあることです。ただ街づくりに関わらずに不満を上げるより、住人様も、事業者も含めて我が事として真剣に、どんな街にしていったらいいかを議論して一歩ずつ実行していくことが大切だと思っています。当初不満に感じていたことも、顔が見える関係になると、どこか応援したくなったり、お互いを助けあったりと、きっとそんな街のコミュニティが理想だと思います。実際に昨年上手く議論が進んでいなかった案件について住人様参加によるワークショップを実施したところ、我が事として一緒に課題を議論した結果、街のためになんとか頑張りたいという一体感が生まれ、皆さん活き活きとされていたのはとても印象的でした。
 Fujisawa SSTにおいては環境貢献を憲章の一つに挙げている街なので、地球にやさしい街を真剣に目指して、脱炭素や緑化、リサイクルなんて街全体で進み出せばとてもカッコいい街になっていくと思います。やはりそれを支えるのはコミュニティであり、関係者一人ひとりのわが街意識が大切だと思います(難しいことは重々承知の上で、個人的には目指すべき姿だと思っています)。

人と人のつながり、コミュニティ

 この活動をFujisawa SSTで推進する上で大変ありがたいのが、街を良くしたいという意識の方が非常に多かったことです。どうしても街づくりはどこの街であっても、利己的な利潤のために批判的な意見も出てくることもよくあります、これは当然です。ただFujisawa SSTコミッティ役員の皆様、Fujisawa SSTマネジメント会社様、モビリティを担当するサンオータス様はじめ運営事業者様とも、ポジティブに正しい議論をさせて頂いています。地方によってはそういった人を集めるのが難しい場合もありますが、まずはひとつ藤沢市で人と人がつながりあったコミュニティから、100年続く運営のロールモデルができれば、きっと日本さらには海外にも自信を持って誇れるようになるのではと思っています。そんな街づくりを目指しています。

まずは、シェアサイクルから始める

 今回住人様の声をヒアリングする中で、Fujisawa SSTから藤沢駅前の距離が離れており、バスが渋滞状況によって遅延することを考えると自転車移動も重宝されていることが一部の方の声から分かってきました。また駅前の市営駐輪場が満杯という課題もあり、今回、駅に乗り捨て可能な住人様向けシェアサイクルサービスを始めました。従来、Fujisawa SSTにあったシェアサイクルサービスは朝8時~20時でしか借りれなかったところを、朝に子どもを保育園に預けながら駅へ向かうお母さんのために24時間対応し、スマホアプリから貸し借り可能としました。3人乗り自転車も充実させたり、いざ出かけたいという時に自転車が無いことも多かったので事前予約も可能にしています。まだまだサービスとしては不完全でこれからですが、サービス化にはモビリティを担当されておられるサンオータス様や、社内ですがパナソニックサイクルテックとも連携させて頂き9カ月程度でサービスローンチに漕ぎ着けることができました。サービスイン早々に通信不具合も発生しご迷惑も多々お掛けすることもありましたが、しっかり住人様のお声を反映させて頂きながら今後もサービス良化を進めていく予定です。

シェアサイクルステーション

環境に優しい移動

 もう一つ、シェアサイクルの狙いは、マイカー所有の化石燃料での移動から、シェア型の自転車移動に変えることでCO2削減で環境へ貢献したいという想いもあります。たとえば世界では2025年世界初のカーボンニュートラル都市を目指すデンマーク コペンハーゲン市は自転車を重要な役割の一つとして捉えており、取り組みは非常に参考になります。(引用:「デンマークのスマートシティ」中島健祐著)

 デンマークでは2017年時点で通勤・通学の自転車利用41%を2025年には50%を目指すために、自転車スーパーハイウェイという自転車専用道を整備し、時速20㎞で走行すれば赤信号で止まることがなく、交通の流れを作り渋滞も防いでいます。雪の日は、車道ではなくまず自転車専用道が除雪が行われており、最優先で街の移動手段として位置づけされています。林間コースもあり、満員電車ではなく毎朝リフレッシュしながら通勤することで、心も体も健康維持にも繋がってきます。このように単に自転車移動といえど、世界では非常に注目されており、個人的には湘南の海や平坦な道の多い藤沢市は、日本でも有数の自転車や電動キックボードなどのロールモデルの都市にもできるのではないかと思っています。そんなFujisawa SSTからもっと多くのクリーンなモビリティが実装されるモデル都市を目指していきたいと思います。

街中にソーラーパネルが設置

縁側の世界感

 シェアサイクルサービスにはもう一つ狙いがあります。それは自転車移動をきっかけとしたコミュニティの醸成です。すでに上記にも記載しましたが、昨今プライベートを守る動きが強くなった結果、パブリックとプライベートの境界がどんどん明確に分かれてきており、上記でも記載しましたが隣に住んでいる人すら分からないということも多くなってきました。昔の日本の家には土間とか縁側があって、外の人が家の中に入るわけでもなく、まったく外でもない場所で雑談や交流が生まれてきたという話もありますが、そういったプライベートとパブリックの曖昧さがコミュニティ形成には重要だとも言われています。その曖昧な空間って何かなと考えた時に、その接点は、別に場所でなくても良いかなと思っています。もしかしたら昔(昭和w)の回覧板みたいなものも、お隣さん同士を繋げる道具だったかもしれません。道具がキッカケで住人様同士が繋がる。例えば、同じシェアサイクルに乗った体験とかを住人様同士で共有したり、顔見知りになったり、そんなキッカケが新しい時代のモビリティのひとつの役割なんじゃないかと思ったりしています。
 実際に実証であった話ですが、釣りがお好きな住人様が居られ、実証の電動自転車や電動バイクを使って湘南へ釣りに行かれました。そのお話を他の住人様にされたところ、そんな近場で色々釣れるんですね、と釣りに興味を持たれ、そこから新たなコミュニケーションが始まりました。移動をキッカケに住人様同士が繋がる好事例だと思っていますが、こんな風に自転車体験を通してコミュニティが生まれて行けばさらに面白い街になると思っています。

対話からデザインするエリアモビリティソリューション

 あと本プロジェクトはパナソニック ホールディングス(株)モビリティ事業戦略室の新規プロジェクトの一つとして推進していますが、実際には現場の最前線で立ち上げ・推進してくれているプロジェクトリーダーや、実務メンバーが居まして、彼らの想いが分かり易くまとまった記事があるので転載しておきます。面白い記事になってます。


まとめ

 諸々書きましたがサービス一つ始めるにも、当初想定していたものから色々な面が見えてきました。やはり理想論からではなく(当然目指す方向性・仮説は必要ですが)、まずは現場に入り込んで課題を理解しとことん考えるのが改めて重要だと感じました。少しでもご参考にして頂ければ幸いです。
 またもし、こういった活動を一緒にしてみたいという方や協業なども是非問合せ先(個人でも結構です)からご連絡頂ければと思います。
 まだまだ自転車シェアリングサービスも十分なものではないですし、一般の皆さんが利用できるサービスにはなっていませんが、今後の進化にご期待ください。関係皆様にはこの場をお借りして感謝申し上げます。 
 ※発信内容は個人の意見です。もし事実と異なる内容ありましたら訂正致しますので、ご連絡頂ければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?