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【読書感想】初老らしさを感じないー伊藤比呂美著『ショローの女』を読んで

伊藤比呂美著 中央公論新社 2021年出版

 母が伊藤比呂美の大ファンなので、母から譲り受けた書籍。

 ちょうど伊藤比呂美が早稲田で教えてて、熊本から東京まで通っていて、途中、コロナ禍になって、授業をzoomでしてというところが書かれたエッセイ。

 今まで彼女のエッセイは結構読んできたが、犬愛や植物愛、父について、娘についてなど、彼女の要素が満遍なく散りばめられたエッセイだった。タイトルには「ショロー」とあるが全然初老という感じはせず、生きる力がみなぎっている人だと思った。早稲田に通っていたころ、枝元なほみの家に寝泊まりしていたようで、その女同士の関係がとてもうらやましく、それがこの本読んで新しい彼女の発見だった。大学での学生とのやり取りも、とても誠実で、まじめで、ほんとに教師として素晴らしい人だったんだな、と思った。

 私の母は、おもしろい作家が書いたエッセイを読んでいた方がずっと楽しい、と言って、私が大学卒業したころから、田舎に引っ込んで、煩わしい人間関係から解放され、ひっそりとばかでかい家で読書しながら暮らしている。図書館にいって本を借りてきて黙々と読むのが、趣味らしい。そんな母は、伊藤比呂美さんのことをマブダチだと思っているんじゃないか、ってくらい、彼女の書いた本をよく笑いながら読んでいるらしい。

 女性のことをあっけらかんとなんでも書き、若いころとても苦労してたけど、それでも、書くことはやってきて、格闘してきたことをエッセイに綴っているが、伊藤比呂美にとって、「書くこと」ってどういうことなんだろうと思う。だって、そんな波乱万丈な日常を送っていたら、詩人なんてやっていられないでしょ、と私は思ってしまう。それでも、創作すること、詩を書くことで、生きることを感じているのではないか。彼女の言葉はとても簡単な言葉で、私たちの心に届く。決して独りよがりの言葉になっているわけではなく、読者に響くのである。なんで、こんな生き生きとしたエッセイ書けるのかなーとかふと疑問に思うのだが、それが伊藤比呂美らしさを作っているような気がする。

 こんなおもしろいエッセイを書けるようになってみたいものだ。

 女性なら、といいたいけど、多分、男性も、彼女のエッセイは読んでいて楽しい気持ちになると思う。言葉にリズムがあるというか、文章が踊っているというか、ほんとに、話すのがうまい人が、ぺらぺら話しているようなトーンのエッセイだ。


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