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【読書感想】言葉をまとう服ー堀畑裕之著『言葉の服』を読んで

堀畑裕之著 トランスビュー 2019年出版

 服飾ブランドmatohuのデザイナーである堀畑さんのファッションと日本文化にまつわるエッセイ。ファッション系の本でおもしろそうなのないかなと探していてこの本にたどり着いた。

 ファッション関係の本てあんまり深くなくておもしろくないな、と思ってたんだけど、最近手にする本はエッセイで歴史的には深く書かれてないが、その人個人の考えが簡単に書かれていて読みごたえがある。このエッセイは、結構彼が思ったことが雑多にかかれてはいるが、matohuというブランドが興味深いコンセプトでやっていることから、その意義を知ることができて読んでよかったと思った。なんていうんだろう、日本のファッション界って、服飾に関わる人が個人的に考えることを書いた本が面白いと思った。もっと「ファッション」という研究分野が進んでくるといいんじゃないか、とは思っていたが、それでも単純にファッションに携わる人の考えは聞いていておもしろい。

 「「日本の眼」で見つめる」という第二章では、日本語の美しい言葉を一つ一つ取り上げて、ファッションの領域とつなげる。「日本の美意識が通底する新しい服の創造」というコンセプトを上げたブランドだけあって、日本の職人が作り出す素材を取り上げたり、とても興味深い作品に仕上がっている。日本の職人技術を大事にしたい、とか日本の文化が目に見える形でファッションに落とし込むというのは、とても分かるんだが、それでいて、日本が、日本が、ってあまりなるのもやだな、とどこかで私は思っていたんだが、最後に鷲田清一さんとの対談が載っていて、鷲田さんが、あんまり日本ってこだわらなくて雑多なものが好き、といっているのにも、とても納得がいった。日本が、って突き詰めていくと、ちょっと間違うことも多々あり。matohuは全然そんなことないけど、私も、もっと雑多なものを好むな、と漠然と思った。

 でも、堀畑さんは、かつてドイツに留学していて哲学者になりたかったそうだ。その大学院で研究中になんとなく思ったことが自分が大学院にいたときと重なった。

「あれほど希望していた哲学者への道が、なぜかとても狭い穴に自分が陥落していく道に思えてきた。研究することは面白かったし、文章を書くことも好きだったが、哲学の研究者になることは、それが高度な内容であればあるほど、一部の人としか理解し合えなくなる世界なのだとわかってきた。自分の足元の穴を深く掘れば掘るほど、周りが見えなくなってくる、そんな恐怖を感じていた。」

p. 194 

 私も研究を続ければ続けるほど、暗い闇の中に突入していく気がした。大学院退学してから初めてこういった私の気持ちにぴったりきた言葉にであった。「「観念」の世界で生きるのではなく、「手」で何かを作り出す仕事をしたいと思うようになった」というのも私と一緒だ。そして、私は現在ファッション関係の本を進んで読んでいる。自分の「手」でなにかを作り出している人の話は面白いからだ。

 このエッセイのタイトルが『言葉と服』というように、堀畑さんが衣服と言葉に接点を求めているのがとても分かる。私はというと、どちらかというと、束縛される言葉からも解放されたいと思うのだが、衣服はどちらかというと言葉のようなものだ。どうしようもなく扱いにくいこの言語というものを、衣服に置き換えてみたらどうだろう。もっと自由に生きられる気がする。

 三宅一生も森英恵も、山本耀司もここ数年で大御所がお亡くなりになっていて、悲しいばかりだったけど、こういう堀畑さんみたいなデザイナーも次世代にいるんだな、と思ったらまた新しい時代が来るようにも感じた。


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