見出し画像

【読書感想】物語られていく愛とエロスと死ー田辺聖子著『ジョゼと虎と魚たち』を読んで

田辺聖子著 角川文庫 1997年出版

 田辺聖子は気が付いたら読んでいた作家。多分、母の書棚にあったのだろう。私が大好きな作家山田詠美が勧めていたのもあって、高校の頃からいろいろ読んでた。でも映画にもなったこの本は読んでなかった。そして、偶然にもこの角川文庫のあとがきが山田詠美だった。

 短編集。女性の日常を書いた彼女の作品は、高校生の頃の私にとってもとても自然に感じられてなんも違和感なく読んでいた。主人公になる女性に物書きが多いことは気になるが、それが田辺聖子自身の生き方を描いているようで、とても実感がこもっているというか、時代を考えると、なおさら女性が自立して生きていくのは物書きになることがベストだったんだろう。

 この短編集のタイトルにもなってる「ジョゼと~」の作品が一番良かった。死とエロスと愛と。といった主題が流れているんだが、彼女の本はそれが重すぎずもなく、軽すぎずもなく、淡々と、といった感じでもなく、物語として軽やかに語られている。映画も観てみたいと思った。この短編をきっかけに若者からも支持されるようになったんだろうか。今の若者にもぜひ読んでもらいたいと思った。

 田辺聖子のポートレイトを初めて見た時、とても、ぎゃっと生命力にあふれるお顔をしていてますます好きになった。この人がぬいぐるみとかリボンが好きであんな作品を書くのかと思ったらもっといろいろ読んでみたいと思った。数年前、亡くなってとても寂しい思いをして、彼女の小説をまた読んでみたくなった。最近、亡くなる人が身近に感じてた作家や有名人であることが多い。三十過ぎたら、知っている人の数も増えてその分、別れも多くなったように感じる。知っている人がなくなると、もっと切実に生きなきゃと感じる瞬間に出会う。

 最後に山田詠美のあとがき読んでたら、「おもしろい」と感じることはこういうことか、と久しぶりに感じた。マンネリ化してた読書生活に、久しぶりに好きな本について話し合える友達と出会った感覚だった。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,330件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?