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【読書感想】現代美術を概観するー山本浩貴著『現代美術史』を読んで

山本浩貴著 中公新書 2019年出版

 「現代美術史」と名を打った書物が出版されてるの、珍しいな、と思って読んでみた。私が大学院6年間かけて研究してたことが、この本の前半に凝縮されて書かれていた。研究生活してた時もそうだったけど、どんどんと良い本が出版される。ニコラ・ブリオーについて、とても簡単にわかりやすく書かれているから、彼について知りたい人は読むとよいかもしれない。彼の本は話題にこんなになっているのに、ようやく今年(2022年)になって一冊出版されただけで、肝心の「関係性の美学」について書かれた本は今までなかった。この本は「リレーショナル・アート」について唯一日本語で読めるブリオーの論点が分かる本だと思う。

 民芸、ダダ、マヴォから始まって、1960年代から80年代のアート、関係性の美学、ソーシャリー・エンゲージド・アート、日本の前衛美術運動、もの派、九州派など、私が苦労していろんな本読んで研究してたことが、こんなに分かりやすくまとまってるなんて、今の若者はなんとお得なことか。この本が出版されたことによって、さらにこれからの現代美術の研究が深まっていくことを願う。後半、第三部の「トランスナショナルな美術史」は私も未知なことが多くて、この部分はとりわけ素晴らしい研究だと思った。

 社会的芸術運動の前史から始まるんだけど、こういうことに焦点当てて、美術史として出版された本は意外と珍しいように思う。私はフランス語フランス文学コースでこんな研究をやっていたが、日本の美術史科の大学院では現代史は研究の対象にならないと思われている。数年前芸大にブリオーが来て、講演会やったときは、会場に入りきらないほど聴衆が押し掛けたが、そんなに注目されている人が書いた『関係性の美学』って現代美術史においてどんな位置づけにあるのか、って日本でそんな明確に記述されてないだろうから、この本は貴重である。

 日本の現代美術史はちょっと不思議な展開を歩んでいるようにも思う。1960年代のもの派、具体など日本特有のグループも誕生しているが、美術史に「関係性の美学」という考え方が生まれてから、それに不思議な形で、後を追っているようにも感じる。参加型アートとかよく言われるけど、ちょっとそういうのにうんざりしていたとこで、私の研究は終わりを迎えたのであった。こうなったら、さっさとニコラ・ブリオーの『関係性の美学』が翻訳されて、いろんな人にちゃんと認知された方が良いように思う。

 この本はほんとに良書。現代美術とは言わず、美術関係に興味がある人みんな読むべき本だと思う。


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