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【読書感想】データと実物の境目ーー『新しいアートのかたち』を読んで

 施井泰平著 平凡社新書 2022年出版

 近美のミュージアムショップで見かけて、さっと読めると思って買った。

 副題が「NFTアートは何を変えるか」となっているように、ブロックチェーン的なNFTの話が中心に書かれている。

 NFTアートとは何か、という疑問に対して、筆者が納得できるシンプルな答えは「情報の時代に最適化されたアートのかたちである」というものです、とのこと。p. 18 要するに情報そのものがアートなんじゃないか、とちょっと疑問に思った。後半に、「確かな記録をする」「著作権の適正な利用」というのが、NFTアートの特性、と書かれていたので、なんとなくそれがおもしろいのは分かるが、著作権ってそもそもなんなんだろう、という疑問もわいた。

 YBAsのダミアン・ハーストがドットが描かれた何かをシリアルナンバーのようなメッセージを施して、実物かデータか、みたいな価値観を選択するコンセプトアートのようなものをやった、という記述があったが、この仕組みがどうなっているのかいまいち私には理解できなかった。NFTアートって実物かどうかというのが問いになるようなものなんだろうか。データを商品にしているのがNFTアートなわけであって、その境目を表現したかったのかな、とは思うが、ちょっと文章にしただけでは説明不可能だと思った。

 孫引きになるが、「「ネット上の不特定多数の人々や企業を受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて、積極的に巻き込んでいく」」ことにある。」(『ウェブ進化論』梅田望夫)というこの人の言ってることが、NFTの積極的に巻き込んでいく方式をよく表現していると思った。でも、どこか、そういうブロックチェーンに興味がない人との関係は完全に閉ざされていて、そこがとても閉鎖的なアートのあり方のような気もしたが、要するに、データがアートになり得るのか、という問いが発生する。でもそう考えていくと、コンセプチュアルアートぐらいからさかのぼってみると、こういう考え方って可能なのかな、と思う。


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