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【読書感想】確かな記憶なんてないーー長島有里枝著『背中の記憶』

長島有里枝著 講談社 2009年出版

 なんかの本読んでたら、この本をお勧めしている人がいたので、読む本リストにキープしてた本。図書館で借りて読んだ。

 長島有里枝さんは写真家らしい。私は知らなかったが、ほんとうに文章書くことが仕事の人ではないかと思うほど、良い文章であった。小説なのかと思って始めは読んでいたのだが、どうも自分の小さいころの話を書いているよう。でも、記憶があまりにも鮮明だ。この本もフィクションか、ノンフィクションなのか、と問うことが無意味なことのように感じる本である。ちなみに図書館では「914」のエッセイに分類されていた。こういう本、本屋でも置く場所に困ると思うが、置き場所に困る本はたいてい良い本、というのをどこかで聞いたが、それは正しい。

 自分が子どもの頃に出会った近所の友達や、親戚やら、育った団地の様子などが書かれている。とても子供の視点で書かれているというか、子どもの頃の記憶がはっきり残ったまま大人になった人なんだな、と思った。でも、一方で、文章の中に、書いている今30代後半である著者が当時を振り返った時の気持ちなども添えられており、一人の人間が大人になって冷静な目で子どもの頃の記憶を眺めている、といった感じだ。

 読んでて、私はこんなに自分が子どもの頃の記憶ってないな、と思ったけど、この本を書いてる彼女も、ここまで鮮明に覚えているのだろうか、それは疑問だ。やはり、書くということ、文章を自分で書いていくことによって、発生してできた本のような気がした。だから、この長島さんにとっての「書く」という行為について考えると、彼女にとって写真を撮ることにつながっていくのかな、と思って読み進めていたら、最後の方で、祖母が撮りためていた写真についての言及があった。たぶん、彼女にとって、「記憶」と「写真」というものはダブっているんだと思う。

 写真撮る人にとっては「視点」というものがとても大切だと思うが、それが物理的な視点というより、ものの考え方とかそういった視点、自分を眺める視点というものが、この作者はとてもしっかり固定されて持っていて、それが「書く」という行為を通して現れると、こういった創作的とも言えない、現実的とも言えない、当時のとてもリアルな子どもの気持ちとなって、文章が書けたのかもしれない、となんとなく思った。それが、たまに写真を見た時に、これって、作り物なの?実在するものなの?と疑問に思う感覚と似ているのかもしれないと思った。

 本当に良い本だったので、いろんな人に読んでもらいたいと思った本。


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