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『イップス』を読んで

澤宮優著 角川新書 2021年出版

 東洋経済の雑誌を買ったら書評に出てて、おもしろそうだから地元の図書館で借りた。スポーツライターの人が書いた独特の文体でちょっと読みにくい、と始めは思ったが、最後まで読んでみて、読んでよかったと思った。

 野球選手とゴルファーが取り上げられていたが、イップスは体操選手とかどんなスポーツ選手にも起こることで、楽器を弾く人、本を書く人にもおこることらしい。医学的な位置づけがなくて、イップスという言葉も、医学的専門用語というより、自然に湧いてきた言葉らしい。

 とはいっても、多くの人が悩んでいる病気なのではないか。そのたびに、みんな精神的な病なのではないかと思ったりして、公にはできない。野球選手にとっては、一昔前は決して口外してはならないことだったようだ。

 野球選手が、イップスを完治するために、何時間も毎日練習して正確に投げられる形を形成した、という話が初めに書いてあったのだが、そんなんで、治るんだろうか、と始めは思った。野球選手は、精神的なものではない、肉体的な癖もある、と主張してて、それはある程度は正しいんじゃないかと思ったが、性格的なことで、人に気を遣う性格だとか、完璧主義だとかもみな思うことらしく、そう書いてあると、ちょっと自分はどうなんだろう、って頭をよぎってしまった。ゴルファーの中では、自律神経と副交感神経の兼ね合いとか、休みをとること、とかが強調されてて、どちらかというと、この本の中では、ゴルファーの視点のほうが、先をいっているように思った。スポーツ選手の言葉足らずな感じのコメントにはちょっと物足りなさを感じたし、スポーツの上下関係とか、コーチとか、他人の指摘が、相手に刺さることもあって、それがイップスを呼び覚ましてしまう、となると、そういう人間関係が浅はかにも感じた。

 「間が出来て考える選択肢があるとミスする、というイップス特有の性質」が出る、ということは、比較的どの選手もいっている。考える時間があると、失敗するそうだ。それは大きな共通点だな、と思った。

 しかし、専門家は、「イップスは同一の運動の過度な繰り返しによって生じる脳の構造的・機能的変化を伴う病気。スポーツにおけるイップスは、音楽家や文筆家の運動障害と同じ局所性ジストニアと考えてよいと思います。」といって、科学的な根拠もあると今日では言われている。

 「イップスの原因は昔だと、強迫神経症や不安神経症が原因だと思われていました。しかし、今は、同じ行動の過度の繰り返しのため、身体に不随意運動が出てきていると思われます」

 ゴルファーのコーチが情報を遮断することも必要なこと、といっていたが、それも納得いく。いろいろな情報があると、あれも効くかもしれないこれも効くかもしれない、と振り回される結果になってしまう。そういう無駄な情報を遮ることもコーチの役割、といっているのには、このプロゴルファーのコーチには感動した。

 この書籍の最後のまとめは、イップスで悩まされている人たちにとても参考になると思う。ぜひ、悩まされている人は一読する価値あり。こういう本はまだ少ないように思う。精神的な病気なんだか、肉体的な病なのか、というところの科学的検証はぜひされるべきだ。原因が分からないものがなんでも、不安症といった言葉で解決される時代は終わりつつあるように思う。そう考えると、この本は一歩先をいっているように思う。

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