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【読書感想】学芸員の仕事にあこがれて―小川洋子『沈黙博物館』を読んで

『沈黙博物館』 小川洋子著 筑摩書房 2000年出版

 小川洋子の小説。小川洋子の作品が気に入りいろいろ読んでいたのだが、最近読んだのがこの本『沈黙博物館』。

 ヨーロッパの方の片田舎の小さな村が舞台で、そこに住む老婆とその養女などと、ある一人の技師が死んだ人の形見を展示する博物館を作る話。途中、爆破事件や殺人事件が起こり、その犯人に技師が疑われそうになるのだが、結局博物館を完成させるまでに至る。

 小川洋子の独特の不思議な感じというか不気味な雰囲気づくりが成功していて、こんな町どこかにありそうなんだけど、なぜかちょっと日本の雰囲気もあって、こんな人いないように思うんだけど、どこかにいそうな気もする。シロイワバイソンの話も、沈黙の伝道師の話も、こんな迷信がある地方が世界のどこかにありそう、と思ってしまう。

 でも一番にいいなと思うのは、この「沈黙博物館」のコレクションを集めていく博物館技師の仕事が死んだ人の形見を盗み出してくるところ。学芸員になりたかった私としては、彼が収集物を手製の道具で燻蒸しているところや、コレクションの記録を取ってる様子がとてもうらやましい限りであったが、こういった仕事をしている人は実際存在しないことは分かっているが、それでも、手作りで一つの博物館を作っていくという作業にあこがれてしまう。学芸員の小説としては、原田マハの小説も読んでみたが、舞台がニューヨークのMOMAとかを彷彿させるすごくノリノリのイケイケのキュレーターのような仕事をしている人が主人公で、共感するには程遠かった。それに比べたら、小川洋子のささやかなものに小説を見出すという姿勢がとても好きだ。

 『博士の愛した数式』では家政婦さんと年配の博士がいい感じの雰囲気で、ちょっと危ないの一歩手前だったが、この『沈黙博物館』でも、三十代の技師さんと少女が怪しい関係になるんじゃないかと一瞬ひやひやするんだが、それはない。恋愛感情って何なんだろうな、と小川洋子の小説読んでるとささやかに思う。人が他人のことに親しみを感じたり、大事だと思う気持ちが性的欲望になる一歩手前まで書かれており、そういう気持ち、壊れないように手で包んでいきたいと思う。それが小川洋子の小説だと思う。



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