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【読書感想】写真家の意味ー大山顕著『新写真論』を読んで

大山顕著 ゲンロン叢書 2020年出版

 私は写真を撮るのが苦手だ。撮られるのも苦手だ。美術作品として観るは問題ないが自分でも簡単にスマホで撮れるようになってから、写真という媒体がいまいちぴんとこなくなった。この好きでもない写真とどう付き合ったらいいんだろう、という素朴な疑問から、この本を読んでみようと思った。

 まず副題が「スマホと顔」となっているところに惹かれた。「顔」は私の研究テーマでもあった。だけど、顔という摩訶不思議な人間の身体に興味がわけばわくほど、研究としては観相学的な方向から切り刻むしかなくて、そうなってくるとちょっとやばい原始的な研究になってしまいかねないので、どうしたものか、と思っていた。

 この本を読んで、確かにスマホと顔は深い関係にあるように思った。自撮りのことを中心に作者は述べていたが、確かに、自分の顔を自分で撮るということに現代のスマホと顔の関係はありそうだ。そういうのが、嫌な私としては、「その場にこの私がいた証拠」として写真を残そうとする人の心理が知りたいところだと思った。

 この書籍には他にも遺影や、著者が建築物を撮る写真家なので、建築物と顔の関係も述べられている。写真家が執筆した写真論ということで若干技術的なというか、専門的な意見も入っているが、それがどことなく議論に客観的な視点を盛り込んでいるようで、とても興味深く読ませていただいた。顔の議論となると、客観的視点が重要になってくるように私は思う。確かにその自撮り写真の重要性は、SNSの普及によってだと言っている議論はその通りだ。写真だけでは成り立たないし、すぐネット上でシェアできるというのが、重要である。Twitter、Instagramで、劇的に顔写真はアップされるようになった。「今、ここ」が重要で、その事実、記憶を残そうというのが自撮りをする人たちがアップし続ける理由だろう。もはや撮影者は関係なくなってきているのだ。そこに作家性はあるんだろうか、というのが、素朴な疑問だ。写真家というものが、これまでのあり方と変わってくるんじゃないかと思う。と、日々思っていたのだが、この本読んで、写真家である大山さんの考えを読んでたら、やはり写真家は写真家として存在していて、こんなふうに写真論を書けるのであるから、存在意義はあるな、と思った。


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