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【読書感想】自分が選ばない本との出会いー『居酒屋道楽』を読んで

太田和彦著 新潮文庫 2006年出版

 友達が贈ってくれた本。古本で、包みの中に入っている文庫本からの引用が一行だけ外側の包みに書いてあって、中身が見えない。その一行の引用から読んでみたい本を買う、という仕組みの古本らしい。(ブックピックオーケストラ

 著者の太田和彦という人は知らなかったが、グラフィックデザイナーで、飲み食いが好きで、訪れた居酒屋放浪記のエッセイを執筆している人らしい。

 始めはこんな本、読まないなあと思ったけど、読んでみたら、結構面白くてすらすら読めた。こういう古本の買い方だと自分の好みとは違う読書の仕方が生まれていいな、と思った。

 居酒屋の話がひたすら書いてあるのかと思ったけど、要するに読みやすいエッセイである。この本、ある界隈の人たちにはバイブルのように思われてたりするのかな、と思ったけど、お酒好きで、一人で飲みに行ったりする人は、とても共感できるんじゃないかな、と思う。

 飲みに行く旅、地元の居酒屋さんを巡る旅、小説の舞台となった町の食べ物屋を訪れる旅、あるいはちょっとした食にまつわる小話なども盛り込んである。そんな本である。

 私は昔はたまに一人で近所の居酒屋さんに飲んだり食ったりやってみたりしたが、あんまり向いてない気がして、辞めた。女性一人で入るのはなんでもないんだが、店によっては舐められるというか、団体客が入っていてそっち優先にされて、なかなか注文取りに来ないし、料理も来ないし、という扱われ方してからなんか嫌になった。でも、こういう本とかほんとに一人飲み楽しんでる人の話を聴くと、良いお店もあって、店主と仲良く話したり、とかそういうお店、私も知りたい。でも開拓するまでには至らない。そこまでではない。

 この本読んでていいな、と思うのはおいしい食事とおいしい酒が出てきて、アットホームな昔ながらの店主がいて、というごく当たり前の良い雰囲気が書かれていることである。今となってはこういう店を探すのが難しい。ほんとに飲み食いが好きな人なんだな、というのは伝わってくるけど、それを読ませる文章にするのも上手な方なんだな、と思った。

 お酒のことや食事のことって書くのが難しいと思ってるんだけど、このエッセイに出会って、こういう読み応えのあるエッセイもあるもんなんだな、と思った。素敵な本との出会いであった。


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