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【読書感想】今更読んでみたー養老孟司著『バカの壁』

養老孟司著 新潮新書 2003年出版

 今更だが、この新書を読んでみたくなった。きっかけは養老さんと阿川さんが対談してる『男女の怪』という本に、養老さんがこの『バカの壁』の話をちょっとしていて、興味を持った。

 とにかく売れた新書なので、今更読むのもなんだか癪に思ったが、とにかく読みやすい新書だった。養老さんが執筆したわけではなく、ライターが書いたそうだが、本当に読みやすかった。こういう場合って、ライターにどうお金が入るんだろう、なんてことを考えてしまった。出版社の取り分が大きいのかな?どうなってるんだろ。あまりにも売れた新書で、新書というものが爆発的に売れるきっかけにもなった一冊だったから、いろいろと考えてしまった。

 『バカの壁』ていうタイトルだから、バカには乗り越えられる壁というのがあって、その方法でも書いてあるのかと思ったけどそうじゃなかった。養老さんが普段から意識的に思っていることが、雑多に書かれている。「バカの脳」という章も設けられていて、頭の回転が速い人の脳について科学的に論じられているところもあるので、読みごたえはある。

 「(...)本来、意識というのは共通性を徹底的に追求するものなのです。その共通性を徹底的に確保するために、言語の論理と文化、伝統がある」 p. 48 だから人間の脳は、他と同じであろうとするのだそうだ。そうしたら平均的な人間ができあがるね。そこで、天才と言われる人についても述べている。数字を驚異的な記憶力で記憶する人は、社会的には不適応者である場合が多い。よって「社会的に頭がいいというのは、多くの場合、結局、バランスが取れていて、社会的適応が色々な局面で出来る、ということ。」p. 128 らしい。確かに、私が、人のことを頭がいいというのは、圧倒的に、世渡り上手の人のことを言っている。そういう人こそ、頭がいいと私は常日頃思っている。

 「知るということは、自分がガラッと変わることです。したがって、世界がまったく変わってしまう。見え方が変わってしまう。それが昨日までと殆ど同じ世界でも。」p. 60 これは「読書するということは、」という語にそのまま置き換えられる。世界が変わるということ、だから知るということは興奮が伴う。知ることを怠ってしまうと、凝り固まった差別をする様な人間になるんだと思う。それは、何歳の人であろうと、同じである。

 たぶん、養老さんが強く言いたいことは、「若い人をまともに教育するのなら、まず人のことが分かるようにしなさいと、当たり前のことから教えていくべきだということです。」p. 157 なんだと思う。それは、みんな同じであろうと意識は働くんだから、なおさら、他人というものを分かろうとする気持ちは働くんだろうが、同じか、違うか、ばかりになってしまうんだろう。「人のことが分かるようにする」ということは、差異も含めて認めるという行為も含むように思う。そうすれば、社会が変わっていくのに、と思った。


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