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【読書感想】作家の力量を知るーー小川洋子『不時着する流星たち』を読んで

小川洋子 角川文庫 2017年出版

 ブックオフでまとめて小川洋子の本を買ってあって、持ち運びに便利だったので未読だったこの本を実家に持って帰って読んだ。

 人物だったり、ある出来事だったり、いろんな種類のテーマのもと、ひとつひとつの短編を書く、という面白い試みをしている短編集だった。

 最後のページまでいくとそのお話が何をテーマにして書いたかが書かれている。例えば、グレン・グールドのバッハの曲をテーマにしていたり。でも、その話が、テーマとしている人物や出来事の歴史的事実と関係してる物語ではなくて、完全に小川洋子の想像力でいろんな話を創造している。作家ってさすがだなと思った。

 ひとつ興味深い短編があった。「お見送り幼児」が話の主人公になっているから、これがテーマなのかな、と思ったら、最後のページにヴィヴィアン・マイヤー1926-2009とあって、ニューヨークとシカゴにいた子供の世話をしていたナニーで子供の写真をたくさん撮っていて、その写真が話題になったという人がテーマになった短編だった。子どもの描写がすごく子どもっぽくてなんかほっこりした作品だった。お見送り幼児というのに私は興味があったんだが、それは、誰か死んだとき、親戚に小さい子供がいない家族が火葬するときにその集まりに呼ばれるそうだ。子どもは、死人の死後の世界を案内する人と言われるらしく、その後の世界の案内人としてその子どもは呼ばれるらしい。そういうしきたりって昔の日本にあったんだろうか。それともこれ小説なの?と疑問に思った。とても面白いと思った。そして、いままで両親の祖父や祖母を亡くしてきたときに、年頃だった孫たちに一人も子供がいなくて、私の祖父や祖母たちは無事に死後の世界にたどり着けたんだろうか、と今更ながら心配になった。確かに子どもの気配がしない葬式ってなんだか冷え切っていて、葬式とかそういう人が亡くなった場には、空気が読めない子供の存在って重要なんだなと思ったが。だからこの短編を読んで、「お見送り幼児」がいるってなんかよい風習だな、と思った。

 「お見送り幼児」がフィクションなのかノンフィクションなのか、知らないが、ネットで調べてみたけどよくわからなかった。でも、こういう子どもをテーマにした作品、良いな、と思った。

 小川洋子の作品はいつも不気味な雰囲気が漂っているが、この短編集は、不思議となんだか落ち着いたとても礼儀正しい雰囲気が漂っていて、ちょっと物足りなさも感じた。でも、その各テーマからこんななんの関連性もないことかけるんだなーと作家の力量を知った本であった。


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