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フェミニストおすすめの本ーー湯川玲子著『女ひとり寿司』を読んで

 湯川玲子著 洋泉社 2004年出版

 フェミニストの誰かの本を読んでいたら、この本が紹介されてて、おもしろそうだから図書館で借りて読んだ。

 なにかの雑誌にずっと連載されていた文章らしく、一人で寿司を食べに行って、官能的な寿司のことや、女一人で行くとどういった他の客と出会うか、店がどういった対応をするか、などと言ったことが書かれている。なかなか大胆な文章で、読んでいて爽快感があるが、だから結局何なの、とちょっと思えるところもある。経費使って食ってるからなんか、稼ぎのいいOLさんが給料日に自分へのご褒美に女ひとり寿司をする、という話ではなくて、そこんとこの私の予想とはちょっとずれていた。一人で、趣味で女ひとりで寿司を食ってレポというのとちょっと違う印象を受けた。

 しかし、フェミニストに評価される文章だということはとても良く分かる。寿司の表現も男性の美食家とは違って、彼女ならではの食レポのようなものを感じた。やはり、食べ物というのは、食べ物そのものの良しあしだけでなく、どういう店の雰囲気でどういう人が作っているのかとかが当たり前のことだけど、重要で、食べた人が気持ちよくなって、良い時間を過ごせたかということが、食べるという行為に関わってくる。おいしいもの、ということだけではないのである。しかし、この本のタイトルが『女ひとり寿司』というだけあって、一人で食べに行っているのだが、この著者湯川さんは、その店にいる猫の話だったりなんかも書いていて、とても環境に作用されているのが分かる。私もよく一人で飯を食いに行くが、高級寿司屋ではないけど、それなりに環境も関係あって、一人で気持ちよく過ごせるかということが私にとっては重要。もしかしたら、そこらへんに男性美食家と女性一人飯の違いがあるのかもしれないが、この本は、ただのフィールドワークというか、もの好きさも漂っているが、食に関しての本としても十分おもしろいし、社会学的にも評価できる本なのかもしれない。

 「”おふくろの味”を断ち切って、田舎から東京に出てきた”都会人”たちは、だからこそ、都会のシステムが生んだ寿司という食の現場に、母性やおふくろに直結する「女」がいてほしくないと考えてしまうからなのかもしれない。」 p.18

 この文章はなかなかの名言であろう。まあ、女がひとりで「寿司」を食うというところに、この本の意義はあるように思う。

 この本は2004年出版されているから、今となっては、こういう一人飯を楽しむ女性は圧倒的に増えていると思うが、その先駆けとなる本であろう。一読する価値はある。


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