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44歳の誕生日に初めてタトゥーを彫りました。

初めてのタトゥー


今年2024年、誕生日にタトゥーを入れようと決め、44歳にして最高な彫り物を身体に入れた。

それは夫の名前。
場所は乳房の脇。
価格は12000円。

私は長生きする自信があるが、それでも44年生きてきたら
そろそろ折り返し地点かな、と自分の命の期限を意識するようになった。
それなら、今までしたかったこと、したいことを全てしなきゃ、と思い立ち、

「タトゥーを入れたい」

という長年の願いを叶えた。

とはいえ、痛いのは嫌だ。

昨年末インスタグラムで「痛くないタトゥー」というキャッチコピーの投稿が上がってきた。(私の好みを拾っているアルゴリズム?すごいな。)
すぐさまそのサロンをフォローし、初めての彫り物を入れるのが誕生日だなんて
なんて素敵な記念なんだ!と興奮しながら予約し、デザインを考え始めた。
ずーっとずーっとインスタグラムで海外のタトゥーの写真をスクロールし続けた。
もちろん、龍やロックな感じではなく、さりげなくておしゃれなもの限定。
どれが自分らしくて、他人と違うデザインか。
一生モノだから集中して真剣に探し続けた。


ところで痛くない、ってどういうこと?
普通、タトゥーは機械を使って彫る。でっかいペンのような物の先が針になっていてそこからインクを体内に入れていく。
彫師さんは、にじみ出てくる血を拭き拭き、ジーと針先を皮膚に押し付け続ける。
それは、痛いだろう。
しかし私が見つけたところは、手彫りなのである。
昔ながらの手法とも言うのか、手で針を皮膚に刺し続ける。点描画のように、チクチクと色を刺し続け、デザインを描く。
もちろん時間は機械の何倍もかかるが、痛さはかなりマイルドとのこと。
なんと寝てしまう人もいるらしい。
タトゥーマシンは、皮膚に針を指した状態で横にスライドさせていく。そこに継続的な痛さが生まれるらしい。
手彫りだと、チクチクとした点々の痛みが続く。皮膚を横断される感覚はない。
そして、入れ墨というのは、皮膚の奥深くまで針を刺さない。
適正な深さまで刺せば、それでしっかり色が入るのだ。
おそらくどこまで深く刺せばいいか、という感覚を掴むのが、彫師さんの技量ではないかと思う。

タトゥー

1月某日 誕生日当日。
娘たちは冬休みが明けて、元気に登校していった。
夫のお母さんがスペインから遊びに来ている。
「じゃ、行ってくるね!」
私は元気よく夫と義母に告げ、バスと地下鉄を乗り継いで世田谷区へと向かった。
夫には彫ることを伝えていた。
夫は、スペイン人にしては珍しく、なんの模様も身体に入っていない。全く興味がないのだ。そんなことどうしてするのだろう、と思っているタイプ。さらに慎重な性格の夫は、タトゥー自体には反対しないけれど、私が大好きな温泉やサウナに入れなくなるんじゃないの?と聞いてきた。
そんなことみじんも考えなかった。
衝動に突き動かされて行動するタイプの私は、
さすがにその時は、夫の心配を真に受けてネットで調べた。
「タトゥー 温泉 サウナ」
どうやら、町の銭湯は入れ墨OKらしい。万人に門戸を広げている。
スーパー銭湯の類はどこもNG。
スポーツジムもNGのところがほとんどだ。

ふむふむ、でも私は暴力団員ではないし、そんな大きなものを彫るわけでもないから、いざとなればシールで隠せばいいっしょ。
と夫に答えた。

30年越しの夢を、風呂屋の理不尽なルールを気にして諦めることはできない。
もし生きづらくなるなら、私は日本を出る。
そこまでの覚悟で地下鉄に乗っていたが、
ひたすら「タトゥー 痛さ どれぐらい」と検索しては心を落ち着かせていた。

サロン

バスと地下鉄を乗り継いで着いた先は、世田谷区の小さなアパートの一室。
「おはようございます。」とドアを開けると、優しそうな私と同じ年頃の男性が穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「どうぞどうぞ。」
かわいいおべべを着たチワワ犬も、キャンキャンとお出迎えしてくれた。

まさかタトゥーを彫るなんて思わせないような、温和そうな彫師さんと初めて入れる人への注意事項の確認と、持病がないか、などの申告をする用紙に必要事項を書きこみサインをした。
しっかりとしている。
それはそうだ、入れる方だって命がけだ。
ちなみに、針も使い捨て、手袋とマスクは必須。消毒も必須。まるで医療行為だ。

インスタのDMで事前打ち合わせしていたデザインを、iPadを使って最終確認し、タトゥーシールにプリントアウトして、実際に入れる場所にそれを当て、鏡を見ながらサイズとバランスの調整をした。
皮膚の伸びも考慮しつつ、横から、正面からどう見えるか?など彫師さんは慣れた様子でプロの意見を伝えてくれた。
その時の私の気持ちは、安心してこの方に任せようと90%はかたまっていたが、痛みに対する不安が10%はあった。

そのサロンは1DKの部屋で、玄関入ってすぐの所にソファとテーブルが置いてあり、そこが相談場所。奥の方の部屋にベッドが2つあり、そこが施術スペース。
ご夫婦で彫師をされているサロンなのだが、この日はご主人のみ出勤されていた。
チワワちゃんも自分のベッドにおさまり、大人しくしている。
私も心を落ち着かせようと、
「すみません、携帯を見ていても良いのでしょうか?」と聞くと、
「もちろん、お好きな格好でリラックスしていてください。」とおっしゃった。

私が彫ってほしい場所は、脇の下から約30cm下の左乳房の隣である。
ちょうどビキニを着た時に見えるように、うっすら残っている日焼け跡を目安に
入れる場所を決定した。
そこにさっきプリントアウトしたタトゥーシールを貼る。
もうそれだけでいいかも・・・、と弱気になっていた私の心の声は漏れていたのだろうか。
彫師さんは淡々と清潔に準備を整える。針やらインクやら必要なものを小さな台に並べ、黒いゴム手袋をピチッと手にはめる。その静かで厳かな様子をじっと見ながら、
フリスクを2粒口に放り込み、ヨガの呼吸をしながら携帯を手に取れる場所に置き、私は私で心の準備を整えた。
どんな体勢で彫ってもらうのかと言うと、ベッドに仰向けに横たわり、壁の方を見ながら左腕を真上に「はーい」と上げた状態。脇の下を全開にして寝ている感じである。
スポーツブラを胸が露わにならないギリギリのところまでたくしあげ、落ちてこないように折り込む。
施術が終わるまでひたすらそのポーズをキープ。

いよいよ

目をつぶって呼吸を整えていた。携帯など見る余裕はない。
温和な彫師さんが「それでは針を入れますよ」 と声をかけてくださった後すぐにチクッとした。
まるで注射のあのチクッである。それがチクチクチクチク進む。
止まる。またチクチクチクチク、止まる。その繰り返し。1分ほどで慣れた。
全然痛くない。ふぅ〜っと力が抜けた。


携帯のインカメラで撮ってみた。



出産を2度も経験していると、ちょっとした痛みなんて屁の河童。
ちゃ〜ら〜へっちゃら〜♪と悟空が脳裏に浮かんだ所で、携帯に手を伸ばし、好きなものを見始めた。
残念ながら、彫られているところは確認できない体勢である。
少しでも彫りづらくならないように、がんばって腕を上げ続ける。
横たわっているとは言え、ずっと腕を上げているのがこんなにも辛いなんて知らなかった・・。針の痛みよりも、約1時間この腕を上げ続けていることの方がしんどかったのが、初めてのタトゥーの一番の体感記憶である。
それでも、彫師さんといろいろなことを話していると痛みも感じないし、時間が経つのが早く感じた。

彫師さんの身体には全身彫り物が施されいるらしい。それは、世界的に有名なタトゥーアーティストさんの作品で、全て彫るのに約半年かかったと。彼の作品(作体?)の展示会やビデオ収録の度に、全裸で参加し皆さんにデザインを見せなければいけないらしい。
後日、何個目かのタトゥーを入れてもらった日、彼は突如とシャツを脱ぎパンツまで下げ見せてくださった。それはそれは素晴らしい大掛かりなデザインだった。

「終わりましたよ。」

優しいお言葉が天から降ってきた時、何より嬉しかったのが腕を下ろせたこと。
そして、意気揚々とデザインを確認した。
カッコイー!!!!!!!!!!!!!!



鏡の前でにやにやと何度も見続けた。
そして彫師さんがインスタグラムの投稿用に写真を撮る。
それもまたプロの感じで、何ショットかいろいろな角度で撮られた。

嬉しくて嬉しくて興奮してお礼を告げ、まだまだ彫りたいデザインがあること、チワワちゃんが保護犬で過酷な運命だったこと、などを帰り際に話しながら、サロンを後にした。
昂ぶる気持ちを押さえながら、コートの下にはタトゥーがあるんだぞ〜とすれ違う人みんなに言いたいような、そんな気持ちで1駅先まで歩いた。


終わりに

44歳の誕生日、自分の身体に夫の名前を彫った。
そんなファンキーなおばさんは日本で私だけ。
夫は嬉しそうに自分の名前を見ていた。
義母にも伝わっていて、ニコニコしながら感想を聞かれた。
娘たちもニヤニヤと眺めていた。

2024年6月現在、私のコレクションは4つに増えた。
まだまだ入れたいデザインがある。
次は芸大卒の彫師さんに機械で入れてもらおうかと、また新しい一歩を踏み出そうとしている。



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