ぼくとボブ・マーリー ②
【シン】
と出会ったのは、大学の新学期が始まって少しした4月の半ばだったと思う。
ぼくは、高校生の頃から地元でライブハウスに行ったり、ターンテーブルをかってレコードを弄ったり、スケートボードをしたりして過ごしていた。
いわゆるマイルドヤンキー的な感じだったのかな、と思う。
持ち前の要領の良さで約半年の受験勉強を終え、無事に高田馬場にある某有名大学に潜り込むことに成功したのだが、そんなぼくの見た目は明らかに周りの新入生から浮いていた。
当時、ぼくは髪の毛を茶髪に染め、針金のようなツイストパーマを当て込み、ダボダボのディッキーズ874パンツにさらにダボダボの2XLのカーハートのポケットTシャツ、眉間と口にはピアスを光らせ怪しい雰囲気満載の新入生だった。
「なんだよ、大学デビューのだっさいやつばっかだな」
生意気だったぼくは、そんなことを入学早々思い、周りの新入生と打ち解けようとするのを辞めた。
新入生歓迎会やサークルなど、全く興味がなかった。
授業をそこそこに受け、空きがあるときは喫煙所でひたすらタバコを吸って暇を潰していた。
「なんだか入るところ間違えちまったなぁ、かわいいこも全然いないし。こんなことなら地元の大学にでもすりゃよかった。」
そんなことを考えながら、4月のカラッとした青空に向けて煙を吹きかけていた。
そんな日が数日続いていたときだ
「ねぇ、君一年生?スケボーかなんかやってんの?」
いきなり話しかけられて、ギョッとした。
ぼくは高田馬場駅からの通学用にスケボーを使っており、足元に置きながらタバコを吸っていた。
顔を上げてみる。
すると目の前には、ドレッドヘアでダボダボのネルシャツを第一ボタンだけ止め、マリファナの葉をモチーフにした大きなゴールドのネックレストップを首からぶら下げている小柄な男が立っていた。
明らかに他の新入生とは、違う匂いに、わくわくする自分がいた。
「そうだよ。おれはマカナ。君は一年生?」
ぼくは彼に問いかけた。
「おれはシン。一年生だよ。だから、喫煙所でタバコ吸う友達少なくてさぁ。(当時のぼくらは18歳)」
そこから、ぼくはシンと仲良くなりしょっちゅう喫煙所でタムロするようになった。
仲良くなるに連れて彼のことがどんどん分かって来た。
シンは、カリフォルニアから日本へ戻って来た帰国子女で英語がネイティブばりにペラペラだ。肌が白く、ギターがうまく、女の子が大好き。ヘラヘラしているが、芯がありやる事はやる。
そんな男だった。
シンはぼくとは違い、社交的な性格だったので大学内にも友達が多く、たくさんの人をぼくに紹介してくれた。帰国子女な彼は漢字にはとても弱く、資料を読み上げる番がシン回ってくると、ぼくが隣から小声で教えていた。
シンのおかげでぼくは、学校が楽しくなっていった。
時が経つに連れ、一緒に飲みに行ったり、ナンパしたり、下北沢のぼくの家に泊まりに来たりするようになり、僕らは「仲間」になった。
「なぁマカナ、SUBLIMEってバンド知ってるか?」
ある日二人で家でのんびりしてるときに、シンが僕に言った。
SUBLIMEとはアメリカ西海岸の伝説的なバンドで、レゲエ、ヒップホップ、パンク、など様々なジャンルの要素をセンス良くサウンドに落とし込んだバンドでカリフォルニア出身のシンはこれが彼のフェイバリットバンドなんだ、といった。
ぼくは、大学生になるから。と貯金を崩して買ったパソコンでバンドを検索し、スピーカーに繋ぐ。音を出す。
流れて来た曲は「Bad fish」という曲だった。チルでメロウなレゲエのビートから、いきなり激しくエモーショナルなパンクに変わる。そこに絡みつくボーカル・ブラッドリーの魂の歌声。
ぼくはアメリカのヒップホップやR&Bは多少なりとも知ってはいたが、こんなサウンドは初めてだ。
「なんだよ、これ。クソかっけえじゃん」
ぼくはシンに答えた。
「なぁマカナ、おれバンド組みたいんだよな。おまえ、ドラムやらねえか?」
シンとの出会いは、ぼくの「音楽」との出会いだと思っている。
ぼくはそこからドラムを練習し始め、スタジオに入りシンは曲を作った。
ずぶの素人だったぼくのドラムビートに文句も言わず、明らかにセンスの塊であるエコーの効いたシンのギターが乗ってかってくる。毎回スタジオに入るたび、彼は音楽は楽しむものなんだと教えているように見えた。
「これがバンドの楽しさなんだ!!」
その初期衝動から、僕はずっと音楽を続けているのかもしれない。
シンとのバンドは、気の合うベースがなかなか見つからなかったりお互い若かったこともありケンカをしたり、彼女が出来たりして二年ほどで自然消滅をしてしまった。
ぶっ飛んでいる彼は、大学を卒業後パキスタンで働いたり、タイで働いたり、ベトナムだったり、相変わらず自由に飛び回っている。今でも女好きで、カジノにハマっているらしい(笑)
ぼくはぼくで、仕事をしながら音楽を続け、何個かの作品をこの世に送り出すことができた。純粋な音楽。それは誇りだ。
出会ってから15年がたった。いまでもたまにシンとはやりとりをする。相変わらずほぼ海外で動き回ってるシン。ぼくはというとずっとやっていたバンドに、一区切りをつけ新しい生活を模索している。
「なぁ、マカナ。バンコクに来いよ?女の子めっちゃかわいいぜ。んで、また一緒に音楽やろうぜ?」
「そうだなあ。とりあえず今年中には一回そっちに遊びに行くよ。」
いつもこんなやり取りだ。
シンは、いう。
「マカナは“仲間”だからさ」
大学を卒業し、この15年間で数回しか会っていないのにだ。
いまぼくは思う
「いまシンと、音楽をやったらどんなふうになるんだろう。」
未来は誰にもわからない。
レコードからはボブ・マーリーが流れている。
いつかまた、シンと一緒に音楽をやる日が来るのだろう。
それは一年後か、何十年後か。
ガイダンス、ガイダンス、ジャーに導かれている“ガイダンス”。人生はすべて“ガイダンス”なんだよ。
僕の小さな一人暮らしの部屋で、ボブ・マーリーがそう語っている。
(つづく)
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