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Closed memories 1

恐ろしく暑い日だった。


影は真っ黒に濃く、カーブミラーの影はワープホールのように地面に穴をあけている。
そのままそこに飛び込んでいけるような感覚に惑わされながら、

通りの向こうを見た。

何もやってくる気配がない。
もう一度スマホを確認する。
メッセージも着信通知もない。
変わっているのは時計の数字だけだ。

暑い。

このまま待ち続けるのか、
もうあきらめて戻るのか

どうしたいのかもわからないまま、ただただ暑さに朦朧としていた。


まだ4月なのに…。


*    *     *


 謎のメールを受信したのがいつだったのかは覚えていなかった。
 片っ端から不要なメールを消していく癖のあるふみは、未読メールをどんどんスワイプして削除していた。
ひとわたり、目に見える範囲の未読メールはなくなったのに、

 いつまでも未読を示す①の数字が消えないのはどうしてだ。

 何か消し忘れがあったかもしれない。
 そう思ってどんどん画面を下に送ってみる。
 未読メールは一向に現れない。そもそも、今まで①なんて出ていたか?
 それが嫌だから毎日いらないメールを捨てているのに。

 わからない。もう面倒くさくなって、未読のみ表示、のボタンを押した。

「え???うそぉ?」

 思わず声に出してしまうほど驚いたのは、
 その差出人の名前があまりにも意外で、かつ懐かしく、そしてメールなど来ようはずがなかったからだ。

 誰かが同窓会でもして、わたしのアドレス教えたのかもしれない。

 その「誰か」すら数えるほどしかいないのだがとにかく、メールを表示する。

「…………。」

 混乱は何一つ解消されなかった。
 そのメールの内容には全く心当たりがない。
 それは屈託なくとある日の出来事を、面白おかしく共有する内容だったが、彼女とともに日々を過ごした大昔の話でもなく、ついこの間の出来事のようなのに当然ふみには一切そんな記憶がない。
 
 誰かと間違えて送ってしまったのだろう。
 そう思いかけたが、違う。明らかに、それは私に宛てて書かれている。

『ふみも今度持っておいでよ。こないだ切れたって言ってたペンダント、すぐ直るよ。あれ気に入ってたよね、細いボールチェーンの。』

 背筋が凍り付いた。
 テーブルの上で
 直しに出さなきゃと思っていた細いゴールドのボールチェーンが光っていた。

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