監禁依存症(櫛木理宇)

依存症シリーズ(真千代シリーズともいう)第三弾目。
このシリーズのテーマは、基本的に性犯罪と思われます。櫛木理宇は他作品でも度々こういった問題を扱っているのですが、どれもデリケートな題材に対して非常に丁寧で真摯な姿勢がうかがえる。

今回、性犯罪加害者の弁護につく事の多い小諸という弁護士がターゲットと思われる。
いかなる犯罪者にも、弁護士を付ける権利は守られるべきです。この作品は、その説を批判するものではないと思いました。
指摘しているのは、制度の不備。

ヒロインである架乃の話に出てくる、法学部の学生同様、私も「弁護士の仕事は依頼者の利益を最大限守る事である」と、そう思っていました。
しかしその後に続く架乃の、法律とは人民の幸福のためにあるのでは?なのにそこから感情を除いて考えるというのは間違っている、との話にはっとさせられました。

人々の幸福のためにあるはずの法律を、裁判をまるでゲームの様に勝ち負けでしか考えていない、そうした裁判の在り方への指摘。

「では加害者側の幸福はどうなるのか」との意見があるかもしれません。
裁きを免れる事が、本当に加害者にとって幸福なのでしょうか。裁きを受けさせず、更生する機会を奪う事が本当に幸福なのか、そうではないだろうと思います。
こうした裁判の歪んだ形は、双方にとって不幸なのです。

性犯罪の裁判での傍聴や、裁判の在り方の不備は少し聞いた事がありますが、ここで描かれるその様子は読んでいてしんどかった。
でも、知るべき内容だったと思います。
被害者への配慮がなされていない、それが小諸の様な弁護士を助長させ、犯罪者にとって有利な世の中にしている。

また、男児の被害は暗数化され易いとの内容を見てふと憶測したのですが、男性の性犯罪者の多くはひょっとして、元被害者なのではないか?と。
被害者が加害者と化す、との例は少なくないと聞きます。そう考えると、性犯罪被害というのはエリート家庭、上級国民でもない限り他人事ではないのかもしれません。

さて、この小諸弁護士ですが、本人は殆ど登場しません。刑事が捜査する中で人々が語る中での人物像しか出てこないのですが、かなり強烈な人物です。
かなり恨みを買っているものだから、事務所や自宅には嫌がらせがひっきりなしにくるというのに、平然としている。
自分が弁護した加害者により被害を受けた女性をグルーミングにかけ、愛人にするなど…こいつはサイコパスじゃないか?!
同じ作者の「死刑にいたる病」に出てくるシリアルキラー、榛村大和に似ている気がしました。


小諸弁護士、現実には存在してほしくないし、絶対関わりたくないけれど、フィクションの人物としては面白い。
こいつは絶対サイコパスなので、きっと今回の件でも復帰できる気がします。
真千代VS小諸を期待したい。
毒蟲VS溝鼠みたいな…

終盤、架乃と真千代のシーンは、個人的にアリ・アスター「ミッドサマー」を彷彿とさせました。
そして小諸弁護士と、彼が篭絡した元被害者で愛人になった女性の関係が重なります。
そして「オオカミの家」「ミッドサマー」以上に、何か強そうに見えるものに縋りたくなる、そんな弱さに共感できる話でした。

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