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Where am I ? - Here (個展の話)

個展「Where am I ?」が無事終わってからもう一ヶ月近く経とうとしている!早い。来てくださった皆様、気にかけてくださった方、本当にありがとうございました。

最初は、展示タイトルを「Here」にしようと思っていたのだけど、今の自分が「ここだよ!」って言えるほど足元固まってないなあ、と思って、「Where am I ?」というタイトルに変えた。ちょっと情けないタイトルだ。でも格好つけてもしかたないな、と思ってそうした。

今までの作品を知っている人からは「作品、変わったね」と言われた。
わかりやすいところでいうと、わたしはいつも風景をモチーフに作品を作っているのだけど、そこに人がでてきたことだと思う。

Homesick (大理石)

山の形を作ったりすると、よく「これはどこの山ですか」なんて聞かれるんだけど(どこの山でもないです)面白いことに、人を作ると「これはあなたですか」とよく聞かれる。

聞かれるたびに、どう答えるべきか迷って「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないですね」といかにも曖昧に濁してしまった。

けど確かに、わたしなんだと思う。でもやっぱり、同時に他の誰かでもあるんだと思う。

………………


少し暗い、というかただただ情けない話なんだけど、展示をやるぞ!と決めたのが8月で、実際制作に入ろうとしていた9月10月、わたしは猛烈にドン底に落ち込んでいた。理由はとっても単純で、お金がとにかくなかったから。

お金がないと本当に、気持ちに余裕がなくなってとにかく卑屈になる。
あんまりにも卑屈になって、「美術なんて金持ちの道楽だ」なんてことを本気で思ったり言ったりしていた。そしてそこそこ本気で、もうやめようかな、って考えたりしていた。

美術業界のあれやこれやの話がすべて遠くに見えて、全然興味もなくなったし、全部どうでもいいな…と思ってしまった。
これから先、続けていく自信がこれっぽっちもなかった。頼れるものも何もないと思った。

でも情けない話、結局わたしにはやめる自信も度胸もなかった。惨めな意地だけ残っていた。

ドローイングを書こうと紙に向かっても何もかけなかったし、粘土をこねる気にもならなかった。それでも一応作品作らなきゃ、という意地だけは残ってて、とりあえず石だけ先に決めた。
それで石を作業台に乗っけて、それから適当にけがきを書いてたら、いつの間にかするすると、作品のアイデアがでてきた。

紙に上にはうまくかけなかったのに、石の上にはするする描けた。
石の上に絵を描くとなんだかしっくりきて、本当に変な話だな、と思った。

石の上にいい感じにドローイングが描けると、猛烈に不安だった気持ちがすこし和らいだ。なくなったわけじゃないけど、とりあえず目の前に彫るものができた。

頼れるものは何もないと思ったけど、結局わたしは石を頼りに作品を作り始めたのだ。


………………

そんな感じでノロノロと彫っていたらあっという間に年があけた。年末、少しやる気を取り戻してきたわたしは音楽を聴きながら石を彫っていて、そしたら他の作品がポロポロ浮かんできて、思いついたやつから彫った。やっぱり手を動かしている方がアイデアはでる。

寒い冬を外で石を彫りながら過ごして、気がついたらそこここに虫の気配がするようになっていた。春が近づいていた。

虫といえば(石の下に隙間を作るために置く木材のことを「バンコ」と呼ぶのだけど)よく、バンコや石をパッとひっくり返すと裏側にびっしりと虫がいて、びっくりすることがある。
びっしりと虫がついているあの様子は、今だに苦手でギョッとしてしまうが、見えていなかった底の部分にそれだけの生命が蠢いていたことに素直に感心したりもする。

わたしは今まで山の形や風景を心象風景として作ってきたけれど、基本的にそこに人はいなかった。人や動物がいるような牧歌的な風景みたいなものを作ったことがなかった。その風景を見ている時(または作っている時)自分自身がどこに立っているかなんて、自分の足元なんて考えたこともなかった。

私が今まで彫ってきた石たち。その底面なんて、考えたこともなかったけれど、もしかしたらそれを裏返したそこに、わたしはいたのかもしれない。

Here (ライムストーン)

これからどうしたらいいかなんて、展示が終わって一ヶ月くらいたった今も、やっぱりわからない。美術を続けていく自信は相変わらずこれっぽっちもない。わたしの「意地」がどこまで続くは、わからない。まあ、全然別のことしだすかもしれないし。(それはそれでいいかな、とも思ってるんだけど。)

でもとりあえず、ここにいたのだ、わたしかもしれない、他の誰かかもしれないけれど、石の、山の底には人がいた。ずっと知らなかったけど、底を持ち上げてみたらいたのだ。それはひとつの発見で、それを見つけられたことは良かったと思っている。

最初展示タイトルにする予定だった「Here」というタイトルは、この作品のタイトルにした。

それでも、"ここ"から次"どこ”へ行くべきかはわからず、まだまだ私は迷子のようだ。もしかしたら、これから先ずっとそんな感じなのかもしれないな、とも思うけど。でも今はとりあえず、意地でもいいから石を転がして転がった方に歩くくらいの気持ちでいよう、と思っている。

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