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ブルートレイン黄金時代の怪作!「皇帝のいない八月」1978年松竹、山本薩夫監督

「皇帝のいない八月」
1978年松竹、山本薩夫監督による映画。

ボクが最初にこの映画を観たのは、中学校の頃だったかなぁ、純粋に、鉄道マニアとして、「ブルートレイン」が題材になっている!ということだけで期待を込めてみた記憶がある。
それから約30年・・・最近のnoteに記載したが、鈴木清順監督「けんかえれじい」から、日本軍の二・二六事件を調べて、映画「日本のいちばん長い日」で、終戦直前の日本軍の決起行動を知ったり、それ以前から三島由紀夫氏の文学や思想などを読んで、そういえば、自衛隊がクーデターを起こす映画といえば・・・
と、この映画を思い出した次第です。

改めて拝見して、いやぁ、「クーデターを企てた自衛隊がブルートレインさくら号をジャックする!!」という題材に果敢に挑戦した、当時の松竹映画制作陣、山本薩夫監督には、最大の賛辞を送りたい!!

だが、しかし・・・

うーん、既に他の人もさんざん書いているが、ツッコミどころ満載の映画ではあります。。。

なんだか、脂ののった超高級マグロを1本仕入れながら、その料理方法に失敗した!?と言いましょうか・・・

原作が悪いのか?
脚本が悪いのか?
監督が悪いのか?

いやいや、それでも、この映画、一度観るだけの価値は十分にある映画だと思いますよ。

今回は、勝手に、ボクなりに「こうすればよかったんじゃないか?」というストーリーを提案しながら、ボクなりにこのステキな題材の料理方法を考察してみたいと思います!?

ブルートレイン、それは憧れの列車だった

ちょうどボクが生まれた1978年頃、国鉄の寝台特急「ブルートレイン」が、鉄道ファンの枠を超えて、社会現象としてブームになりました。
ボクが物心ついたころ、手に取った「のりもの」の本の表紙は、ほとんどが、EF65型機関車のけん引する、ブルートレインだったのです。
ボクらより少し上の世代は、深夜に通過駅に写真を撮りに行くことが問題になったり・・・

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このEF65型1101号機は、今でも新鶴見機関区2101号機となって、貨物列車牽引に活躍しています!!
嗚呼、本当にこのEF65型、好きなんですよ!!

子供のころ、ボクにとっても、ブルートレインは、憧れでした。
日本地理だって、ブルートレインの行き先で最初に覚えたぐらいです。
しかし、実際に乗れるようになったのは、ずいぶん後のこと。
東海道、東北、上越・・・新幹線に加えて、飛行機や高速バスも台頭し、一般の乗客が移動手段として選択する公共交通機関としての使命を終えようとした頃でした。
故郷岡山への帰省で利用した「瀬戸」をはじめとして、この映画の舞台になった「さくら」、その他、九州行きの名列車「あさかぜ」「富士」「はやぶさ」、そして、ブルートレイン末期には、「北陸」「あけぼの」・・・

確かに、自衛隊関係者、軍事評論家、ミリタリーマニアの方からすると、クーデター部隊が、一般乗客に交じって、鈍足なブルートレインで移動するなんてありえない、、、と。
そう言われて、山本薩夫監督もその設定自体に、マジメに悩んだそうですが・・・

その根底の設定には、悩んじゃダメでしょ!

エンターテインメントとして、一大ブームになっている「ブルートレイン」を舞台にすることに話題性と、意義がある!!

まぁ、さらに擁護するわけじゃありませんが、クーデター部隊としても、当時、「ブルートレイン」をジャックすることが、それだけマスコミ的にインパクトある存在だったのだと思います。それに、新幹線よりも、セキュリティ的に甘いし、乗客を人質にしたまま、東京駅に突入!
その後、渡瀬恒彦さんのセリフにもありましたが、東京駅から皇居まで、クーデター部隊が行進する!!ってのを夢見るのも、絵的!?詩的!?にはありえないことじゃないのでは?

また、映画的にも、1975年に東映が「新幹線大爆破」、東宝が「動脈列島」を、そして、1976年には海外で「カサンドラクロス」がヒットした時代、うまく料理すれば、かなりの話題作になる素地はあったのだと思います。

この映画では、国鉄の協力など得られず、ブルートレインの撮影は、オリジナルで制作したセットと、北海道の三菱大夕張鉄道の客車に張りぼての外観を着けて撮影したそうです。
WEBを調べると、当時の大夕張鉄道の張りぼての写真とか出てきて、鉄道マニア的にはげんなりさせられます。

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例えば、車両の床下に爆弾をセットするシーンなど、確かに鉄道マニアから見れば、大夕張鉄道の古典客車の台車が写っていて、うーん、もう少しリアルに近い車両を準備できなかったのかな、と残念に思えてきます。
まぁ、そもそもこの、床下に爆弾をセットするシーン、そんな簡単に乗客に見つかる方法じゃダメだろ!!というツッコミどころ満載なのですが・・・

しかし、寝台客室や乗務員室、食堂車など、車内のセットについては、その質感やディティールなど、ブルートレインに乗車してきた鉄道マニアのボクとしても、なかなかリアルだと思います。

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門司駅に近づいて、寝台をセットする描写や、何度も出てくる、ブルートレインの特徴的な、廊下の窓下にある、折り畳み椅子。
製作陣の努力の跡がうかがえます。

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実際のブルートレイン末期2014年にボクが撮影した、24系寝台車「あけぼの」車内。

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2004年にボクが撮影した、24系25型「出雲」食堂車(既に食堂車としては営業していない)

三島由紀夫が重なってくる!?渡瀬恒彦の名演技

演技では、やはり、渡瀬恒彦さんの狂信的元自衛官が最高です!!

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さくら号で、三島由紀夫氏の市ヶ谷での演説になぞらえたセリフを車内放送したり、

「我々は5年待った!もう待てん!我々の愛する美しい国はいったい何処へいった!」
「その拳銃は重いだろう。引き金を引いてみろ。ふやけたお前の平和なぞあっという間に吹っ飛ぶぞ!」

なかなかの名台詞ぞろいではあります。

しかし・・・今の感覚で観ていると(いや、当時でもそうか・・・)自分の上官(三國連太郎さん)の娘である吉永小百合さんを、5年前のクーデター計画が失敗した腹いせ?に、拉致して強姦した!!!???ってところで、「えっ??」ってなります。。。悲

強姦はいかんよ!!ダメ!!絶対!!!

うーん、山本薩夫監督は、かなり左翼的な方と伺いましたので、やはり、どうしても渡瀬さんをヒーローにはできなかったのかなぁ・・・。

ボクの勝手なストーリー提案【その1】

過去、三國連太郎さんと渡瀬恒彦さんは、自衛隊で信頼しあう上下関係だった。
三國連太郎さんの娘、吉永小百合さんが学生時代に出会う、山本圭さんは、大学時代、学生運動に明け暮れ、当時の左翼思想にどっぷり浸かったまま、その後、大手商社で自由奔放に生活している。
三國連太郎さんは、山本圭さんに対して反感を抱き、渡瀬恒彦さんとの縁談を無理やり進めてしまう。
吉永小百合さんは、本当は山本圭さんのことが好きだったのだけれど、妻(母)を亡くし、三國連太郎さんが男手一つで育ててくれた(ココからボクの勝手な妄想)父親の思いを汲んで、父親の強い希望に沿って、渡瀬恒彦さんと結婚することになった・・・。
ところが、その後、渡瀬恒彦さんは、クーデターを画策し、父と軋轢が生じてしまう。
吉永小百合さんは、過去、山本圭さんの愛を裏切ったという自責の念もあり、葛藤の末、父からの自立と、信頼してくれる人を裏切りたくはない思いで、渡瀬恒彦さんを選ぶ・・・。

キャラとしては市民代表、山本圭

それならば!

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山本圭さん演じる石森が、山本監督の代弁者として、もうちょっと日本の戦後、シビリアン=「市民」の代表として、左翼的に、渡瀬恒彦さんと強烈に対峙しても良かったのではないかと思います・・・。

「命を懸けるとは、必死になって生きる事だ!子供のために女のために、必死になって自分を守ることだ!!俺はそういう平和に生きていく人間だ!!!」

このセリフは名台詞!!
この勢いで、「三島由紀夫VS東大全共闘」張りの熱い戦いがあれば面白かったのですが・・・。

いや、基本的には、山本圭さんのキャラクターは、好感を持っているのですが、吉永小百合さんへの未練がクドイ!!クドクドしすぎる!!
そして、何より吉永小百合さんに対して放った、今の嫁様へのこのセリフ!!
ボクとしては許せません!!

「足が不自由でね・・・おとなしいだけの女だ」

最初にせっかく仲睦まじい嫁様への電話をかけるシーンがあったのに!!

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山本圭さんの嫁様役、香野百合子さん。
電話カバーも懐かしくて、かわいい!!

確かに吉永小百合さんはかわいいけれども、山本圭さんの今の嫁様もなかなかかわいい娘さんではありませんか!!
ボクとしてはどうしてもこのセリフが引っかかって、最後まで山本圭さんに感情移入できませんでした。

ボクの勝手なストーリー提案【その2】

過去、父三國連太郎さんの反対で、吉永小百合さんとの婚約が破断になった山本圭さん。
一時期は、自暴自棄になり、商社も辞めたが、今は新たな妻と新生活を始めている。
妻は妊娠いよいよ出産間近!(ココからボクの勝手な妄想)、仕事の出張からは、どうしても明日には東京に帰りたい。
その道中、さくら号で、吉永小百合さんと運命の再会。
理由も言わず去っていった吉永小百合さんを思わず問い詰めてしまう。
しかし、列車の異変に気付いた山本圭さんは、苦しんでいる吉永小百合さんの心中を察し、学生運動に傾倒した左翼的思想も相まって、渡瀬恒彦さんに対峙していく。
渡瀬恒彦さんに冷たくあしらわれ、吉永小百合さんもろとも爆破する勢いの渡瀬恒彦さんに対し、山本圭さんは、昔の吉永小百合さんへの思いも再燃しそうになる。
しかし、今の嫁様に勝ったお土産の博多人形を目にして、この列車を救うことができるのは、自分と吉永小百合さんだけだ!と思い立ち(ここが、実際の劇中では、「この列車を救えるのはあなただけだ!!(俺は知らんよ)」という山本圭さんが他力本願に見えて冷めてしまうんですよ・・・)クーデター部隊の中で、渡瀬恒彦さんに懐疑的な橋本功と共に、再び自分の意思を強く持って、渡瀬恒彦に対峙していく。

吉永小百合はやはりかわいい!!

しかし、ボクは今までサユリストでもなかったのだが、この映画で改めて吉永小百合さんの美しさを認識した笑
いろいろツッコミどころ満載のこの映画で、吉永小百合さんの美しさで、全てを纏めようとしたでしょ!?

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いや、登場シーンからして、「着物でどこに行ってたの!?」っていう笑
嗚呼、吉永小百合さんを着物姿で登場させたかったんだなぁ!っていう笑

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暑い夏、和室で、着物で、ビールを持ってくる姿が、これほど似合う女性を、ボクは、知らない。。。

しかし、吉永小百合さんをもってしても、渡瀬恒彦さんと山本圭さんの間を揺れ動く心は、演技し辛かったんじゃないかなぁ・・・
何だか、劇中では、ずいぶん自分勝手で芯の無い女性に見えてしまう・・・
正直なところ、もったいない!!

ボクの勝手なストーリー提案【その3】

山本圭さんの愛を裏切り、父の強い思いに応えて渡瀬恒彦さんと結婚したが、その自責の念と、父からの自立を強く思ってついていった渡瀬恒彦さんは、今、さくら号を乗っ取り、クーデターを企てている。
山本圭さんに頼りたかったが、彼も既に新たな生活を持っている。
いよいよ、自分は、一人の女性として、狂信的になった渡瀬恒彦に対峙し、この列車の乗客を救わねばならない。。。

そうなると、ラストは、渡瀬恒彦さんと手を取り合って死ぬ場面じゃないだろう。

完全にネタバレですが、全員死んじゃうラストではないラストをボクは提案します!!

しかし、山本圭さんと、吉永小百合さんの二人が生き残るハリウッド的ハッピーエンドでも無いかな。

ボクとしては、今回、この映画のもう一つの核である、滝沢修さんの佐橋総理大臣率いる、日本政府のストーリーについては、劇中のままとしておきましょう。
いや、高橋悦史さんの内閣調査室室長は、ツッコミどころもありますが、実際の日本政府をデフォルメした、面白い描き方なのかもしれません。
「政治的に闇に葬りました!」という結末が、山本監督が強く描きたかったことなのかもしれません。

しかし、「みんな死んじゃいました!」という後味の悪さ!
あえて書きませんが、三國連太郎さんも「え!?ええーっ!!!」という結末。。。

ボクが提案するエンドは、「山本圭だけ生き残る」

ボクが提案するエンドは、「山本圭さんだけ生き残る」だと思います。
例えば、嫁様と産まれる子供を人質にされて、
「何もしゃべるな!!」
と脅されて。

吉永小百合さんは、山本圭さんを車外に逃がしてから、渡瀬恒彦さんを止めようとして、残念ながら爆死。。。

いかがでしょうか?
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ボクが「皇帝のいない八月」をリメイク!?

山本薩夫監督が果敢に挑んだ「皇帝のいない八月」を是非ご覧ください!!

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