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日常の非未充足

商品企画は常に市場の変化と変化によって生じる欠乏を探しています。
自覚された欠乏をニーズと呼び、それを埋めることが商品の存在意義です。
世の中には既に多くの製品やサービスが存在しており、完全な未充足は殆どありません。
一部は満足しているけれども完全ではない、そんな状態が殆どです。
一方で如何にも必要そうに見えるのにサービスとして普及しないものもあります。
なぜ普及しているのかを考える場合にはある程度の答えが見えますが、なぜ普及しないのかを考えようとすると、本当の答えはなかなか見つからないものです。

なぜ普及しないのか。
私がそう考えるのはタバコケースです。
タバコを吸うことが格好良さの一つだった時代は遥か遠く、周囲への迷惑や健康被害の方が注意を引くようになりました。
かつてのパッケージデザインは失われ、健康を害することを伝える部分が半分を占めています。
このパッケージの表記を変えることになってから最初に感じたのは、従来のパッケージデザインを模したケースを作ることで新しい市場が開けるのではないかということでした。
味わいではなくパッケージに意味があって吸われていた銘柄も多くありましたので、デザイン性を崩すものに対して抵抗するチャンスです。
ところがそれから十数年しても普及する様子はありません。
電子タバコの普及はありましたが、パッケージがダサいからという理由ではありませんでした。

かつてはタバコを吸う姿や、特定の銘柄を選んで吸うことに価値がありました。
その銘柄のデザイン性が失われても抵抗がないという状況を見ると、求めているものが変わっていっているように思えます。
吸うことを疎まれ、デザインを崩されていく間に、他者からの評価としての喫煙ではなく、習慣やリラックス目的といった自分の中での評価に切り替わっているのではないでしょうか。

私はタバコを吸いません。
だから喫煙者の気持ちは分かりません。
私の想像するパッケージデザインの変化に対する不満は、どうやら多くの喫煙者にとっては対策をするほどのものではないようです。
もし十数年前にパッケージ変更をビジネスチャンスと考えて何かしらの投資をしていたら大きな失敗をしていたことでしょう。
世の中にはビジネスチャンスとしての未充足と、一見チャンスに見えても求める人がいない非未充足が存在します。
もしかしてチャンスがあるのでは、そう思った時には実際のユーザーへのヒアリングから始めましょう。

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