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[小説・ユウとカオリの物語] 告白 │ユウ目線10話

恋愛はもう、やりきったの......


 カオリさんの突然のカミングアウトに僕が、「知ってましたよ」と言った時のカオリさんは、とてもびっくりしていた。そしてこの前のレッスンの日も、種明かしで「ノンケの人はノンケって言わないですよね~」なんて僕が言って、2人で大笑いをした。カオリさんとはあれからもそんな、穏やかな優しい関係が続いてる。だけど......

傷つく覚悟、か......

 僕はカオリさんが言ったその言葉がずっと、心から離れなかった。カオリさんはずっと僕を気にかけてくれている。愛情、とも呼べる気持ちをもらっていることもずっと感じてきた。そしてあの日、僕を大切に思ってるとも言ってくれた。カミングアウトしてくれた上で、大切だし好きだとも言ってくれたんだ。だけどあの日言ってくれたのは、恋愛としての「好き」の表現とは、違ったんだよな。だけどカオリさんが僕に向けてくれている気持ちが、恋愛じゃないなんて、僕には思えないんだ。でもそれも、僕の勘違いかもしれない。

「僕が勇気を持って1歩を踏み出さなきゃ、このまま何も進まないんだ」

 そんなことを考えながら僕は、カオリさんにLINEした。

「カオリさん、今いいですか?」

「えぇ、いいわよ。って急に何よ?いつも勝手にLINEしてくるじゃない?笑」

「あ、そうでしたよね笑」

「僕、カオリさんが大好きです」

「え?何よ知ってるわよ笑 だって、いつも言ってくるじゃない? わたしも好きよ。知ってるんじゃなかったの?」

「そうじゃなくて......僕は最初からカオリさんのこと、恋愛感情として好きでした。カオリさんが僕の事を大切に思ってくれることを、僕はこのままだとずっと勘違いしてしまいます。だからはっきり伝えます。カオリさんの好きがどんな感情だとしても、僕はカオリさんのことを愛してます。これからもずっと......」

「そうだったのね......わたしが勘違いさせるような言い方をしちゃってたから......そうなの、ごめんなさいね...でもわたしもう、恋愛はやりきったの。もうそんな気持ちになれないのよ。」

 カオリさんはそう、返事を返してくれた。そしてこう、続けたんだ。

「愛の気持ちに色があるとするなら、ユウへの気持ちはどんな色なんだろうって、考えてたの。......マゼンタと青、が浮かんだわ。空の色よ。数年前なら、恋愛感情になっていたかもしれない。だけど今はそんな感情にならなくなってしまったのよ。ユウがただ勘違いしたんじゃないと思う」

 これって振られたんだよね。だけど僕はなぜか、とても感動していた。

「マゼンタと青」

 こんな愛情表現をする人、僕の今までの人生上で、いただろうか?いないよな。これからもいないだろう。やっぱりこの人を好きになってよかった。僕はそのことが嬉しかった。それに、数年前なら恋愛感情になってたかもって......それで十分だな。プラトニックでもいい。僕はカオリさんとのこの大切な、優しい関係を大事にしていこう。そう、強く思ったんだ。

「正直な気持ちを書きます。恋愛かどうかはもう、僕にとって何の意味もないんです。ただ、カオリさんの、特別な存在になりたいです。それだけです。そして僕がカオリさんに恋愛感情を持つことを、許して欲しいです」

「あぁ、良かった……」

「え??良かった??」

「だってもう、特別な存在だもの。特別じゃなきゃわたしの詩に、あなた、として登場しないわ」

 僕は震えた。これで十分だ。だけど僕はわかっていた。マゼンタと青、だと表現したカオリさんの愛は、間違いなく恋愛感情だということを。だって愛の色じゃないか。優しい愛の色だよ。だけど自分の感情に気づいていないのか、それとも否定したい何かがあるのか。恋愛をやりきったと言っていたけれど、幸せな恋愛関係をしていたなら、やりきったなんてことはないはずだ。何か過去にあるのかもしれない。とにかく、僕は今はそこは踏み込んじゃいけないんだ。僕を特別な存在だって意識してもらうことで、そのうち心が動くかもしれないし。うん。時が解決する。きっと。その時を待とう。

 そんなことを考えていたあの時の僕には、「その時」がやがてすぐに来ることまでは、気付けなかったんだ......

読んでくださりありがとうございます。
2人でそれぞれの目線から、2人の物語を書きあっています。
随時マガジンにアップしていきますので、
良かったら最初から読んでみて下さいね。
ユウとカオリの物語|https://note.com/moonrise_mtk/m/mafeab246795b

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