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ユウとカオリの物語

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LGBTQ+当事者カップルの2人が描く恋愛小説。ユウ目線でのお話と、カオリ目線のお話を2人で書きあっています。セクシャルマイノリティの世界ではない、ごく日常の中で出逢った2人の物…
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2022年8月の記事一覧

[小説・ユウとカオリの物語]約束の日

『Bar ROSE』に立ち寄るのは、通常、2~3週間に一度。打ち合わせや後輩指導にアクティに行った帰りには、クールダウンしたくなって寄る。 だから、今日は特別。あんな約束してしまったからね。 「わたし、来週もここに来るからさ。あなたも来なさいね。」 昔からそうだった。初対面の人が、わたしの隣で泣き出して、抱えていることを話し始める。よくあること。 だから、あのときも別段驚かなかったし、いつものように話を聴いたんだよね。けど、いつもとは違うことをした。 また会う約束を、わ

[小説・ユウとカオリの物語] 動き出す -ユウ目線 その4-

 もう、ここには居れないな  あれから一週間。今週は休日出勤もあったから休みなく仕事に集中してた。だけどもう、限界だよ。アイツは相変わらず、目も合わさない。仕事のことで質問したら答えてはくれる。だけど、僕はこの空気にはもう耐えれないよ。  ここは、アイツの居場所なんだよな  そう。ここはアイツが大切に作ってきた居場所なんだ。そんな場所で息苦しくしてしまったのは、僕自身なんだ。片道1時間半もかけて通ってた職場。だけど僕は、ここが好きだった。右も左もわからない僕に、webプ

[小説・ユウとカオリの物語]Good Lack

朝起きて、今日のスケジュールチェックをする。これやらないと、わかんなくなっちゃうのよね。大人の個別レッスンが2件、夕方はちびっこクラスか、、依頼仕事は夜だな。 なかなか忙しい日だなぁって思いながら、ふと彼女の顔が浮かんだ。 危なっかしいくらいの純粋さを纏った彼女。今日はとても怖い思いをしてるんだろう。でも、逃げることなんかできないんだろうな。なにしろ、まっすぐなんだもの。 あんなにまっすぐで純粋なんだもの。そりゃあ尊敬する人には気づいてほしくなるよね。「あなたが毎日のよう

[小説・ユウとカオリの物語] ユウの勇気 -ユウ目線 その3-

 よりによってこんな日に会議とか。しかも終わってからみんないつまでしゃべってんだよ。でもまぁ、気を使ってくれてるんだよな、みんな。アイツ、僕と目も併せないし。気まずいのみんな気付いてんじゃねーか。どんな顔してここに居たらいいんだよ?……あ、だめだ、過呼吸になる......まずい。 「すんません、ちょっと腹痛いんでトイレ行ってきます......」 「え?ユウくん、大丈夫なの?さっきより顔色、悪いわよ?」 「リノさん、ありがとうございます。大丈夫っす。ちょっと冷えただけだと

[小説・ユウとカオリの物語] ユウの憂鬱 -ユウ目線 その2-

 昨日のあの人...…カオリさん、か。あの、懐かしい香りと懐かしい感じはなんだったのかな。どっかで会った覚えもないし。だけどそのせいなんだろうか。初対面の人の前であんなに泣くなんてな。普通びっくりするよなぁ。自分でもびっくりしたけどさ。だけどカオリさん、全然驚きもしなかったんだよな。僕が話してる間もカオリさん、ずっと気配を消してるみたいだったし。だけど優しい人だったな...うん、ほんと。優しさがオーラみたいに、にじみ出てたよな。それにさ、僕のこと何も聴いてこなかったし。僕は男

[小説・ユウとカオリの物語]Bar ROSE

「カオリさんは帰るんですか?」 「ええ。もう若くないのでね。帰って寝るわ。」 と、嘘も方便。 本当は、職場の飲み会は、若いころからずっと一次会だけと決めている。 飲み会といっても、わたしは乾杯のビールだけ。それくらいはお付き合いするけどね、お酒は好きなものを静かに味わいたいもの。 皆と別れて『Bar ROSE』へ向かう。ひとりでゆっくり飲んで、クールダウンしよう。 『ROSE』はいい。 マスターはお酒については詳しくて、それでいて、押しつけてこない。わたしが好きそうな

[小説・ユウとカオリの物語] 指切りげんまん -ユウ目線その1-

吸い込まれる用に入った小さなバーで、 君と出逢った。 君はそこでずっと、 僕を待っていてくれた気がしたんだよ。 そう…… 僕は君に続く道を、走って来ていたんだ。 ------------------------------------ あの日僕は、とても焦っていた。 そして恐怖で押しつぶされそうだった。  明日だ。明日、僕の人生は終わるかもしれない。あんなこと、してしまったんだもんな。気の荒いあいつに、殴り殺されるかもしれない。まだまだ生きていたかったな。だけどそれも自