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[小説・ユウとカオリの物語]Bar ROSE

「カオリさんは帰るんですか?」

「ええ。もう若くないのでね。帰って寝るわ。」
と、嘘も方便。
本当は、職場の飲み会は、若いころからずっと一次会だけと決めている。

飲み会といっても、わたしは乾杯のビールだけ。それくらいはお付き合いするけどね、お酒は好きなものを静かに味わいたいもの。

皆と別れて『Bar ROSE』へ向かう。ひとりでゆっくり飲んで、クールダウンしよう。

『ROSE』はいい。
マスターはお酒については詳しくて、それでいて、押しつけてこない。わたしが好きそうなものがあれば、声をかけてくれる。黙って飲んでいると、放っておいてくれる。

「いらっしゃいませ。何になさいますか?」

こういうところもいい。常連だからこれだろう、みたいなことはしない。毎回、ちゃんと聞いてくれる。

「シーバス12年をダブルで」

いい香り
ほんのり甘みのある味わい
グラスを揺らすと、カランと鳴る氷
心地いいなぁ。お酒はこうじゃなくっちゃ。

ひとりにんまりしていると、ドアが開いた。入ってきた子が気になった。年はだいぶ下だろうな。危なっかしいくらいの純粋さを纏っていて、それでいて、、いや、だからかな?何か切羽詰まった感じがした。

彼女は、なぜかわたしの側にまっすぐやってきた。じっと立っているので声をかけた。

「座ったらどうですか。お隣、空いていますよ。」

ひとことふたこと、言葉を交わした後、彼女はワンワン泣き出したけれど、わたしは別段驚かなかった。
これまで、どれだけ泣かずに頑張ってきたんだろう。背中を撫でたくなったけれど、初対面の人に触られるとびっくりするだろうから、言葉をかけるにとどめた。

「大丈夫ですよ」

すると、黙ってみていたマスターが、そっと小声で言った。
「ここは、泣いても良い場所なんですよ。」

彼女が『ROSE』にたどり着いてよかった。
そんな日に、わたしが『ROSE』にいてよかった。

これが、わたしとユウの出逢いだった。

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